日刊早坂ノボル新聞

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◎一生は紆余曲折の連続 あのセイントボーイやこのセントボーイの話

◎一生は紆余曲折の連続 あのセイントボーイやこのセントボーイの話

 東京五輪で「最も印象に残った場面」のダントツ一位が「近代五種で馬が動かなかったところ」なそうだ。

 概略はこう。

 五つの競技のうち、ドイツの女性選手が四種目目まで一位を走っていた。最後の競技を無難にやりこなせば金メダルが見えている。

 馬術競技で騎乗する馬は抽選で選ばれる。

 その選手が引き当てたのは「セイントボーイ」という馬だ。(「Saint Boy」だから馬の名前は「セイントボーイ」でも「セントボーイ」でも良いと思う。)

 このセイントボーイがいざ競技となったら、選手の言うことを聞かず、障害をまったく飛越しなかった。そこで女性コーチが馬を殴り、さらに選手が鞭でシバいたが、結局、馬は跳ばなかった。

 この「コーチが殴りつける」場面と、選手が「泣く」場面が報道されてしまい、これが人々の印象に残ったらしい。 

 

 梃でも動かぬ馬の様子を見て、「あのドイツ選手はたまたま駄馬が当たった」とするネットニュ-スもあったが、「セイントボーイ」は、飛越競技で複数の国際大会でも優勝した名馬だった。

 乗り手がよほど馬をこじらせなければあんなことは起きない。

 一説によれば、直前の試技に騎乗したロシア選手が馬を苛立たせ、途中で失格(正確には失権)になった。その影響で「馬が騎手を拒否した」ことによるらしい。

 だが、その競技では、馬が前の試技で失格になった場合は、次に乗る選手は「馬を取り換える」権利があったそうだから、基本はドイツ側の「選択ミス」による。

 それがたまたま、「それまで一位で来た選手」で「焦りのためコーチ・選手で馬を殴った」ことでニュースになったわけだ。

 馬には何の落ち度もなく、ある意味、可哀想な事態になった。

 

 さて、この「セイントボーイ」だが、この名前には記憶がある。

 かなり前、平成の初頭だったと思うが、競走馬に同じ名前の馬がいた。登録名は「セントボーイ」だ。

 条件馬で、おそらく一勝もしていなかったのではないかと思う。

 だが、この馬は「もの凄い名馬」だったような記憶がある。

 

 この馬だったか、あるいは似た名前の馬だったのかは今では確かではないが、こんな風な未勝利馬が人生(馬生)を逆転させたケースがある。

 この馬は、記録に残るセントボーイと同じく未勝利馬だった。

 ひとまず仮に、この馬のことを競走馬と同じ「セントボーイ」と呼んでおく。

 

 このセントボーイは未勝利馬のまま登録を抹消され、売りに出された。

 こういうケースでは、地方競馬や乗馬用、あるいは国外の韓国やアジアに買い手がつかねば、処分されてしまう。繋養しておくだけで費用が掛かるから、これは致し方ない。

 このセントボーイも、屠畜される寸前のところまで行ったわけだが、たまたまフィリピン人の金持ちの目に留まった。

 結局、この金持ちがほとんど「捨て値」で買い取ってくれたので、セントボーイはフィリピンに連れて行かれることになった。

 フィリピンにも競馬があるが、金持ちはそこで走らせてみることにしたわけだ。

 レースの主役たちは、もちろん、他に居る。セントボーイみたいな駄馬は「員数合わせ」で、要するにエリートホースを引き立たせるための要員だ。

 闘犬で言う「噛ませ犬」と同じこと。

 

 ところが、どこに転機が転がっているかは分からない。

 このセントボーイにはフィリピンの水があったのか、元は「小柄な痩せ馬」だったのが、どんどん馬体を増した。これには、「成長が遅かった」という面もあるかもしれぬ。

 セントボーイは下級条件のレースに勝ち、次第に階梯を上り始める。

 次々にレースを勝つようになると、馬主や調教師の本気度が増した。エリート馬ではなく、この馬を丁寧に扱うようになっていく。

 そして、遂にこのセントボ-イは、日本でいうところG1レース相当の最高賞を勝つまで上り詰めたのだ。

 

 平成の初頭に幾度かマニラを訪れたことがあるが、中年のオヤジたちと食事をすると、決まって「日本の馬が※※賞を勝ってなあ」という話になった。この辺、言葉がタガログだから詳細なところは分からない。

 

 「屠畜される寸前の馬がG1を勝つ」というのは、起死回生の夢を与えてくれる。

 実話だけに、なおさら心が揺さぶられる。

 それ以来、ずっと「これを物語にしよう」と思っているが、なかなか現地に行き記録を調べる機会が持てない。

 記憶では、確か「セントボーイ」みたいな名だったと思う。

 さしたることを残せずに中高年になってしまった「駄馬」(私のこと)にとっては、まさに希望の星だ。

 

 五輪からかなり脱線した。