◎無常の月
家人が「息子の物を買いに行く」と言うので、運転手を務めた。
午後から出掛けたが、家人が店に入ると、待てど暮らせど戻って来ない。
「おいおい。ダンナの物なら五分で終わるのに」
ま、世の母親はそんなもんだ。
帰路は真っ暗。
空にはまん丸の月が出ていた。
「そう言えば、もうこの季節だな」
この時期の月は一年で最も大きく、明るく感じる。
だが、すぐに欠け始め、同じ顔を見せることをしない。
そこで、下語を「あのひとと同じだなあ」と流すと、中世の短歌になる。
ところで、江戸時代がおよそ三百年近くあり、「すんげえ長い」気がするが、平安時代はそれより百年近く長い(390年)。
今に伝わる平安の歴史が宮廷の話中心だから、江戸より短いような気がするだけだった。
明治維新後、百数十年が経過したから、江戸はその二倍と数十年。これは自身尾人生の時間感覚と重ねると、何となく想像がつくタイムスパンだ。
だが、平安時代は維新以後の三倍だ。
あちこちでよく分からぬ遺跡が出たりするのも当たり前だと思う。
誰のものとも分からぬ舘跡がそこここにある。
この月は、そんなことまで思わせてくれるようだ。
追記)ちなみに、ジャンルの違う話だが、こんなごく普通の景色を撮影する時も、ファインダを覗く時には、「顔や眼を出して、せっかくの気分を壊してくれるなよ」と声を掛けてから撮影している。いつ、どこで割り込まれるか分からぬためだ。