日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第1K13夜 師匠の車を届ける

夢の話 第1K13夜 師匠の車を届ける

 二十三日の午前三時に観た夢です。

 

 講演会場から師匠の教授が出て来たが、顔色がすこぶる悪い。

 疲れていることが傍目で歴然だった。

 その師匠が俺を見て言った。

 「K君。君は運転が出来るよね。ちょっと頼みたいことがあるのだが」

 「はい。何でしょうか」

 「私は今日はもう運転が出来ないから、ドライバーを務めてくれんかね」

 「大丈夫です。お送りします」

 

 駐車場に向かうと、先に師匠と先輩の一人が待っていた。

 車は国産だが大型のセダンだった。

(頭の中で、ほんの少し「あれ。先生にはこういう嗜好は無いし、そもそも車の運転などしない」と思う。)

 とにかく、今は務めを果たさねばならんから、すぐに運転席に乗り込んだ。

 講演会場は羽田の近くだったが、師匠の家は目黒だった。

 俺は行き方を知らぬので、カーナビを見ようとしたが、そのカーナビがついていない。

 (「まだカーナビが一般的ではない時代なのだな」と言う考えが過ぎる。)

 とりあえず、近くに行ったら、先生に教えて貰おう。

 ひとまず出発したが、十分も行かぬうちに車が止まってしまった。

 ボンネットを開けるが、理由がよく分からない。

 時間がかかりそうだ。

 

 そこに、たまたまタクシーが通り掛かったのでそれを停め、師匠にはそっちで帰って貰うことにした。

 「先生、早く帰ってお休みになって下さい。私が調整して車を送り届けます」

 「そうか。よろしく頼む。ではO君も残り、私の家への行き方を教えてやってくれ」

 その場には、俺とO先輩が残された。

 先輩が俺に尋ねる。

 「君は車のことが分かるの?」

 「幾らかなら。実家な商売をやっていたので、業務用の車の調整を幾らかやっていました」

 直せぬようなら修理屋を呼ぶことになる。

 

 だが、程なく原因が分かった。バッテリーとエンジンを繋ぐ回線が外れていたのだ。

 今の時代にこんなトラブルは珍しいが、電源をソケットに差し込めばそれで動く。

 「割合簡単でしたね」

 二人で再び車に乗り込む。

 

 高速に乗り入れたが、俺にはどうにもルートが分からない。

 そもそもあまり来たことのない方面だし、かつ道路がうねうねと折れ曲がっていた。

 「高速なのにこんなのはアリなのか。信じられん」

 ムンクの絵か、テリー・ギリアムの世界観のよう。

 現実とは思えない。

 

 そのまま乗っていると、東池袋出口の傍を通った。

 「ありゃりゃ。方向が全然違うじゃないか。どうなっているんだろ」

 ここは携帯で確かめたいが。

 だが、携帯電話はまだ一般には普及していなかった。

 「まだ昭和だからな。俺が仕事用に携帯を買うのは数年後のことだ」

 

 ここでO先輩が口を開いた。

 「先生は大丈夫だろうか。ま、お宅に着けばわかるけれど」

 そりゃ大丈夫。先生が亡くなるのは平成に入ってからだ。

 O先輩だって、六七年は後の話になる。

 そこまで考え、ようやく俺は気が付いた。

 「不味い不味い。俺の師匠とO先輩が死んだのは、もはや二十五年以上前のことだ。それが揃って現れたとなると」

 簡単な話、「そろそろお呼びが掛かっている」ということだ。

 ま、俺の人生には失敗談なら限りなくある。

 法螺を交え、面白おかしく語れば、先生だって喜んでくれるに違いない。

 何せ、あの世の住人はいつも暗いことばかり考えている。

 

 「でも、あと一二年は待って下さいよ。息子が仕事に就いたら、俺もひと安心だし」

 高速道路がうねうねと波打つ。

 このまま別の道に進み、可能な限り遠回りしてくれると助かる。

 ここで覚醒。

 

 病院で「生き死に」に関わる出来事を目にしたので、それが影響したようだ。

 O先輩は四十歳を過ぎたところで急死したが、さぞ心残りだったろう。