日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第1K29夜 扉が開く

◎夢の話 第1K29夜 扉が開く

 十二日の午前二時に観たごく短い夢です。

 

 瞼を開くと、俺は居間の中央で横になっていた。

 震災以来、居間にいる時には寝袋に入ってごろごろするのが習慣になっている。

 寝袋の中にいれば、そのまま寝込んでしまっても、別段風邪を引くことなく眠れる。

 息子が気を利かして灯りを消してくれていたのか、居間は真っ暗だった。

 熟睡は出来るのだが、目覚めて瞼を開いた時に、近くに幽霊がいるとバッチリ見えてしまう。

 幽霊は肉眼ではほとんど見えぬのだが、赤外線に反応するから、気温の下がる夜に暗いところにいると、昼の間よりも見やすくなる。

 人間が闇を怖がるのは、暗闇の中に捕食獣がいるかもしれぬリスクと、じっと自分を見る幽霊の視線を感じることがあるためだ。

 

 当家の「通り道」は階段の下の辺りで、これは台所のカウンターの横だ。

 この位置には、時々、「女」が立って俺を見ている。

 炊事をしている時など、カウンターの陰から身を乗り出して見ていたりするから、着物の裾なんかが俺の視界の端に入ってしまう。

 このため、どうしてもそっちの方角を見てしまうのだが、やはりそこに人の気配があった。

 「ああ。今日も来てやがったか」

 ま、気にしてはいられんし、コイツは別段何をするわけでも、したいわけでもないことが分かっているから、俺はさっさと起き上がって部屋の灯りを点けた。

 パッと照明が点くと、ひとの気配は見えなくなった。

 いつも自分独りでいる時には、俺はいつも灯りを点けている。

 まるで「暗がりを怖がる子ども」と同じ振る舞いのようだが、俺の場合は実際にそこにいることが多い。

 

 起き掛けだったので、俺は少し機嫌が悪かった。

 「迷惑だから、うろちょろするなよな」

 しかし、これが「挑発」になったらしい。

 いつも「あの世の者には敬意を払え」と言っているわけだが、この日は俺が挑発めいた言葉を発してしまった。これが悪かった。

 すぐ近くのテーブルの上に置いてあったペットボトルが「ばた」と音を立てて横倒しに倒れた。

 やはり、さっきの黒い影は気のせいではなかったということだ。

 この辺、「俺さま」クラスになると、日常的に幽霊の方が関わろうとして来るから、自分が見ているものが想像や妄想なのか、ただの軽い気のせいなのか、あるいは現実の一端なのかの区別がつかない。当たり前のようにそれが起きるからだ。

 「チッ」と舌打ちをする。これは自分自身に対してのものだった。

 だが、カウンターの逆サイドにあるロッカーの上の扉が「キーッ」と音を立てて開いた。

 先方はさらなる挑発と受け取ったのか。

 

 「家の中に居てもいいし、俺の傍に立っていてもいいから、バタバタするのは止めてくれ」

 すると、部屋の中がしーんと静まった。

 俺はすっかり目が覚めたので、台所に行きコーヒーを淹れることにした。

 カップを持ち、居間の中央に戻ろうとすると、背後でバタバタと音が響く。

 振り返ると、先ほどのロッカーの扉が全部開いていた。

 それだけでなく、台所の戸棚の引き出しと言う引き出しが全部開いていた。

 「ああ。やっちまった」

 思わず渋面になる。この状態まで来ると、なかなか静まってはくれなくなる。

 案の定、それから後は、俺の行く先々で、背後の扉や引き出し全部が音を立てて開くようになった。

 振り返ると、いつも空き巣に入られた直後のような有り様になっている。

 襖や押し入れ、その上の戸袋までが開いている。おまけに、押し入れの中に置いた金庫の扉までが開いていた。

 「どれほどのスピードで開けるのだろ」

 こんなことならビデオで撮影すればよかった。

 

 だが、俺はここで気が付いた。

 「こりゃ、もしこのままでいてくれるなら、俺は一流の鍵開け屋になれるかもしれん」

 商売繁盛になること間違いなし。

 ここで覚醒。

 

 窓が開いてもいないのに、屋内の扉が壁にバーンと音と建ててぶつかるくらいの勢いで開く。

 テーブルの上のペットボトルが理由なく倒れる。

 戸棚の引き戸が開いている。

 みたいなことは、当家でもたまにある。

 だが、物理的な要因も否定は出来ぬから、あまり気にすることは無い。ある意味、逃げ道のある方が助かる。

 

 「ようつべ」に「引き出しが勝手に開く」「家具が動く」動画は山ほど出ているが、大半は作り物だと思う。動き方に「不自然な力が掛かっている」ように見える。

 私と息子の見ている前でテーブルからスプレー缶が床に落ちたことがあるが、なにか力が掛かったようには見えなかった。