





◎古貨幣迷宮事件簿 N073およびN074について
かなり細に入った品なので、詳しく南部銭を研究する人以外には向かない。そこでいっそのこと、資料館を含め誰かに贈呈しようかと思っていたが、それも姿勢としては収集家を小馬鹿にした面があるので、ひとまず掲示することにした。
「興味を持つ人がいない」と確定すれば、躊躇せず寄贈出来るようになる。
M073 小浄法寺天保 中字半仕立ての改造銭
解説はこれまで幾度も記載して来たので不要と思うが、称浄法寺天保の半仕立て群の通用銭に、1)面背の山の部分は砥石での研ぎ落し、2)谷の部分は金属のヘラのようなもので圧延(いわゆる鋳浚い)、3)輪側は粗砥での研磨、を加えたものだ。
恐らくは半仕立てを素材に、鋳放銭群を作るための母銭改造を試みた内の一枚になる。ただし、不首尾だったと見なしたのか、削字等の加工には進んでいない。
このやり方は密鋳銭の寛永銭ではよく見られるが、当百銭では類例がない。
全体を研ぎ落すのは量目調整を主目的とするわけだが、本来の母銭や通用美銭があれば、ここまで手を入れずとも目的を達成できる。
そうせずにわざわざ荒っぽい手法を取らざるを得なかったのは、要するに、「母銭や通用美銭を持っていなかった」ということを意味する。
すなわち、「鋳放銭の製造は山内座の当百銭の鋳銭には関わりのない者が行った」ということの傍証になる品だろう。
昭和末の発見直後は、加工の痕跡を残す称浄法寺銭は、もの凄く高価な扱いだったが、今ではコレクションと言うより資料価値としての方が高いと言える。
ただ、これを持って何かを言うためには、間を繋ぐような「製造工程を示す資料」を揃えることが必要になる。さてもし挑戦する者がいれば、お手並み拝見だ。
N074 寛永当四 密鋳銭 大字南部写し
幾度か売却を考えたが、鑑定にスッキリしない部分があり、直前で思い留まり、自己落札した。経費を払って買い戻すという面倒な話になったが、釈然としないものを他者に預ける訳にはいかぬだろう。
当初は白っぽい地金だったが、古色が着くと赤くなった。輪側が横系統斜めの線条痕なので、南部写しと言うことだ。
問題は型分類で、単品で見ると、大字なのか小字なのかはっきりしない。
赤茶に変色したことで、大字らしい特徴が見え難くなってしまったせいだ。
そこで初心に返り、基本的な画像解析を基に検証してみることとにした。
内郭外周の規格を同じくすると、文字や輪の形状や配分比を比較することが可能になるので、それを合わせ、この品が小字から発したものか大字を起源とするものかを検証してみた。
割合簡単に一致点と不一致点を析出することができ、この品の型分類は「大字」であることを確立できたと思う。
大字の密鋳写しはかなり希少で、文政五百に対し写しは一枚に達しないと思う。
過去に南部写しの大字美銭が出たことがあるが、桁一つ上の評価だった。
ただ、残念なことに、この品はあまり美銭とは言えず、「珍しい密鋳銭」程度の評価になると思う。
面白いのは「仕上げ手順」で、この手順は「文久様」の工法に近似している。
十年前までは、おそらく文久様の仲間ではないかと思っていた。
若手収集家はこの型分類手法をさらに発展させるとよい。画像解析ソフトによっては、「適合率※※%でどの銭種」を判定できる。その延長線上には、「スマホで画像を撮影すると、自動的に銭種を分類してくれる」という展開がある。
顔の画像認証をプログラム化するよりも簡単に出来る筈だ。
結果的に分類で頭を悩ます部分が激減し、関心の置き方自体が変化することになると思う。
注記)いつも通り一発書き殴りで推敲や校正をしない。当然不首尾はあると思う。
既に隠居の身なので、議論などもしない。