◎ラーメン屋にて
家人が「今日はラーメンを食べよう。私が奢る」と言うので、息子と三人でラーメン屋に行った。次女は「外に出たくない」との由で留守番だ。
ラーメン屋で各々が注文すると、家人が「オトーサン。お誕生日おめでとう。来月は私の番だからね」と言う。
えええ。これはお祝いだったのか。
当方はもうハレの席には出ないけれど、中華は父の好物だった。皆で食べて思い出すことはご供養になる。
最後に父をラーメン屋に連れて行ったのは、もう四年半くらい前だ。
なんだかんだと理由を付けては、施設から連れ出し、釣りに行ったり、温泉に行ったりした。帰りに「何か食べて行くか」と訊くと、父は決まって「ラーメンと炒飯」と答えた。
コロナの蔓延と、当方の体調の悪化で、会うこともままならなくなり、父はさぞ退屈しただろうと思う。
父が同じ席に座っているような気がして、さすがに泣けた。
当方のみ、父の亡骸を見ていないし、葬式にも出ていないから、もはや「父がこの世にいない」という実感がない。
旅行が出来ぬ体になり、むしろその点では良かったのかもしれん。
当方の意識の中では、父がまだ施設で暮らしているような気がしたままだ。
今は血圧が低下気味なので、幾らか塩分の強い食事も大丈夫になった。もちろん、普段塩抜きの食事をしているから、外食すると塩辛くて困る。
だが、時々、町中華に行き、父のご供養をしようと思う。
ちなみに、家人は来月には「居酒屋と言うものに一度も言ったことが無いから、試しに連れて行く」ことになっている。
銀婚式をとっくの昔に過ぎた夫婦なら、別にこんなもんだ。
家人には、このダンナが「まだ生きているだけ有難いと思っててくれ」と言っている。