◎病棟日誌 R060808 今日のサヨナラ
朝、病棟の前に行くと、車椅子のAさんが放置されていた。
「もう少しで車に乗れるから、家から通える」と言う。
マジでスゴイな、この人は。
心臓のバイパス手術を4回受けて、まだ生きてら。
当方などせいぜいカテーテルを5回だから、おこちゃまだわ。
「Aさんはしぶといよね。顔に『まだ死にません』と書いてあるもの」
実際そうだ。この病棟では「車椅子に乗るようになったら」という傾向がある。その後程なくベッドごと移動してくるようになり、ひと月後にはオサラバ。
癌で死なず、心臓や脳梗塞を乗り越えると、最後はほぼ腎不全になる。その後、心肺の疾患が出てあの世に。これは最初の病気で使う薬物が原因だ。造影剤なんかは腎臓を直撃するから、人によっては施術のすぐ後に腎臓の機能がガタンと落ちる。
ま、やらないと死んでしまうからその治療をするが、結局は薬が原因で致命的な症状に至る。
腎不全患者は一年二30万人だが、多くはその年のうちに亡くなる。これは七十台八十台で、他の病気の果てに腎不全になる患者が多いことによる。
それを考えると、Aさんの生命力はスゴイ。
ま、まだアラ60で発病が若かったから基礎体力があった。
生き残った代償が老化で、外見は80歳くらいに見える。
ベッドに行くと、すぐに看護師のウエキさんがやって来た。
「私、今日が最後の出勤です」
義父の介護とダンナの転勤で関西に行くらしい。
「それなら、もっと冗談を言っとけばよかった。下ネタを含めて」
「どんどん言ってくれれば良かったのに」
「でも、ダンナさんは自衛隊だから、迂闊なジョークを言えば射殺されてしまうからな」www
ウエキさんは五十台だが、無駄肉が無く整っているから、かなり若く見える。五十二三歳くらいの女性の分岐点があるようで、若い人はそのまま若いが、そこからガタッと老いる人もいる。
ここで脳内で「五十二三歳ってちょうどコーネンキくらいか」と浮かんだ。
治療終りに更衣室に向かうと、トダさんが歩いていた。
かなり良くなったのだな。
心境ひとつで病状が変わったりするから、何か気の持ちようが変わったのかもしれん。
幾らかは、当方が励ましたり、お稚児さまのお守りを上げたりしたことも関わったと思う。もちろん、あくまで幾らかだ。
心の中には、免疫力を高めるスイッチがあるから、自分の中のスイッチを探し当てると、病気があっという間に治ったりする。
ある他人は癌で余命数か月だったのに、ある時はっと気づいて、ビタミンCを大量に摂取したら、肝臓の大半を占めていた癌細胞がさっと消えたそうだ。ビタミンCを摂取した時に、すうっと体が楽になる気がしたそうだ。
たぶん、治癒の理由はビタミンCの方ではなく、「楽になる」方だと思う。心と体の双方のスイッチが金庫のダイヤルを合わせるようにピタッと合った。
ある人はやはり末期癌だったが、思い出づくりに夫婦で山に行った。そこで、生まれて初めて「なんてきれいな景色何だろう」と思ったそうだが、下山したら癌が消えていたそうだ。
他の人が真似をして、ビタミンを大量に摂ったり、山に登ったりしても何も変わらないと思う。これはその人なりのスイッチだった。