日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎病棟日誌 R060702 「生き残りは4人だけ」

病棟日誌 R060702 「生き残りは4人だけ」
 これは火曜の出来事。
 朝、病棟の入り口に行くと、Aさんが車椅子に乗りぽつんと置かれていた。
 入院病棟から来るのだが、朝は忙しいから早めに連れて来られ、鍵のかかった入り口の前に置いていかれる。
 少し気の毒なので、話を聞いた。

 Aさんは57歳か58歳だったと思ったが、慢性腎不全(透析)になって22年なそうだ。
 心臓は4度外科手術を受け、大動脈を取り換えた。
 透析患者になったのが30台の頃だから、たぶん、心臓の治療が原因だ。心臓の治療では造影剤を多用するが、コイツが腎臓を直撃する。
 長く透析を受けていると、動脈硬化が進むので「全身の血管が石灰化」しているらしい。
 Aさんは、注射針を刺す血管が無くなって、首に人工血管を植え、そこに針を刺す。
 病苦が長いので、外見は70歳台後半に見える。20年は老けた。
 「全然くたばりそうじゃないから、明るく考えて行きましょう」と励ました。

 下のロビーに行くと、ガラモンさんやNさんなど同級生(同年入棟)がいた。
 「Aさんはこんな具合でした」と報告した。
 7年前にいた患者のうち、生き残っている患者は、この4人だけ。ガラモンさんによると、「よく話をしていた人では14人が亡くなった」らしい。「よく知らぬ患者」の方は50人くらいだ。
 ところが、その後病棟に来た患者で生き残っているのはゼロ。
 今いるのは1年2年の患者ばかりだ。
 Nさんは「俺も指が1本無くなったし、背筋が寒いわ」と笑っていた。まったくで。
 医療統計と全然違うのは、70、80でここに来て、「新幹線の速さで去って行く」者は、「主たる死因」が別の病気になるからだ。最終的に心不全、肺炎で死ねばそれが死因になる。
 腎不全は「多臓器不全症の最後の方に立ち寄る途中駅」に過ぎない。
 年を取れば、大体は心臓か肺かがん、そして腎不全で死ぬ。
 ある医師が「腎不全の患者の医療費が高いわけではありませんよ」と言っていたが、それは透析患者が短期間のうちに死んでしまうから、「死ぬまでの医療費合計」の平均では癌患者より少ないということだ。癌患者は「最初の1年間だけ」で自己負担百万、医療費合計で3百万使うのだが、腎不全患者はそもそも1年もたぬ患者が凄く多い。余命が3か月から半年の患者が4割近いと思う。

 動脈硬化のスピードが半端なく、否応なしに「程なく自分の順番が来る」ことを自覚させられた日だった。