日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎病棟日誌 悲喜交々1/30 「ステロイドの怖さ」

病棟日誌 悲喜交々1/30 「ステロイドの怖さ」
 介護士のバーサンに恐山や不老ふ死温泉への行き方を教えた。
 「大宮からどっちへ行くにも五時間半かかる。おまけに恐山から温泉へも五時間以上だ。片方ずつ二回行った方が疲れないよ」
 「でも私はのんびり電車に乗るのが好きだから。利尻へも電車をのっり次いでフェリーで行ったよ」
 「それなら花見の季節にすればいいよ。恐山付近で一泊して、翌日は弘前で桜見物。桜の季節には混雑して宿が取れぬから、その先でまた一泊。最期に不老ふ死温泉に一泊するといいよ。計三泊。でも露天風呂は確か混浴だよ」
 「でも海が見える温泉に入りたいよね」
 「たしか湯あみ用のパンツを貸してくれると思ったけど」
 ベッドに行くと、程なくバーサンがやって来た。
 「ちょっと厚かましいお願いだけど、地図も出してくれないかな」
 オイオイ。追加注文かよ。
 ま、関わったから、路線図くらいは出力してやるか。

 治療中にオヤジ看護師が来たので話題を振った。
 「昨今話題の芸人の性加害報道を見ていて、疑問に思ったが、五十台であの乱痴気ぶりなら、よほど元気がいいね。暇が無いだろうに、大胸筋が異様に盛り上がっているところを見ると、テストステロンを使ったな。軽いトレーニングでも筋肉がつく」
 「男性ホルモンを摂取すれば、そりゃ性欲が異常に高まりますね」
 「だがリスクの方が大きい。体が中高年なのにホルモンを使うと、前立せん癌にまっしぐらだ。睾丸癌もね。それ以前にステロイドだから心臓を直撃する。プロレスラーの平均寿命が五十台なのは、多くの者がステロイドを使うから。これが短期的なリスク。中期的なリスクは、ステロイドは腎臓を直撃するから、慢性腎不全に陥りやすい」
 「よく知ってますね」
 「腎不全がどこで起きるかについては当事者だもの。心臓も」
 いずれにせよ、ステロイドは「寿命を縮める」ことに変わりない。目先の利点で行動すると、その何倍かの不都合がやって来る。

 医師の問診が来たが、やはり周囲の患者の話が耳に入る。
 右隣は心臓付近に動脈瘤がある。
 左隣はどうやら腎臓癌のよう。血尿が出過ぎ。
 だが、切除しないで、このまま行けるところまで行くらしい。
 既に腎臓の大半が機能していないので、転移もし難い。
 慢性腎不全なら透析で幾らか生きられるが、急性腎不全になると二日でお陀仏。肝腎は命に関わる。
 そのオヤジの隣のジーサンは入院患者で、一日中泣き叫んでいる。基礎体力や抵抗力が落ちると、痛みを強く感じるようになる。既に動けぬようで、次第に断末魔の叫びに近くなって来た。

 だが、あと一週間でその苦しみから解放される。
 ここにいる患者だけでなく、殆どの人が通る道だ。
 ひとはどんな状況にも慣れるから、こう頻繁に生き死にを見ていると、他人の死も自分の死も同じで、次第に何とも思わなくなる。

 今日、ユキコさんは当方のベッド周辺には来なかったが、帰りがけに背中を見ると、オーラが小さくなっていた。
 通り縋りに「休んだ方が良いよ。具合が悪いでしょ」と声を掛けると、「どうしてわかるんですか」と驚いていた。
 昨日、何か検査を受けるのに麻酔を掛けられたが、それが合わなかったらしく具合が悪いそうだ。
 最近、生きている人のオーラが見えるようになった。
 これも当方が「死にかけ」の状態だからで、早く手を打って、こういうのが感じられなるところまで戻る必要がある。

 小鹿野に行かねばと思って行ったのだが、「少女」の存在を実感してから、悪夢が消えた。
 この二週間は「眠ると異様な悪夢」を観ていた。