日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第103夜 峠越え

息子と2人で夜道を歩いています。
息子は17歳くらいですが、現実にはおらず、この夢の中だけの存在です。

辺りは真っ暗。
海岸沿いを移動中に車が故障してしまいました。しかし、通っていたのは旧道で、深夜は車が通りません。
仕方なく2人で近くのスタンドまで歩くことにしたのです。

既に別のところにトンネルが開通しているため、街燈も点いているのはまばらです。
真っ暗な中を2人で歩きます。

「父さん。なんだか怖いよ」
息子の言うことは本当で、周囲に禍々しいものを感じます。
「しっかりしろ。心を強く持っていれば大丈夫だ」
「でも。周りには何かいるよ」
確かに、林や藪の中にうごめくものがありました。
「いつも言っているだろ。心さえ強く持てば、生きている者が一番強いんだよ」
息子の返事がありません。
後ろを振り返ると、息子の姿が消えていました。

いかん。連れて行かれたか。
暗闇ではラチがあかないため、道を走ります。
1キロくらい先には、小さい集落がありました。
最初の家に行き、戸を叩きました。
「息子が霊に捕まったようなので、救い出すのを手伝ってくれませんか」
その家の主人は、渋い表情でした。
「係わりあいになりたくないなあ。あの峠は昔から・・・」
「ばかもん。誰か分かる者はいないのか!」
叱咤された男は、急に目覚めたように、どこかに電話を掛けました。
程なく、初老の男がやってきます。

「昔からこの地では神隠しが起きる。場所は昔の中学校の跡だろう」
峠の中腹を海岸の方へ降りると、18年前に廃校になった学校があるとの由。
集落の住人7、8人と連れ立ち、その廃墟に向かいます。

懐中電燈を掲げ中に入ると、すぐ最初の教室の窓全面に目張りがしてあります。
ここか。
その窓ガラスをがしゃがしゃ叩きます。
「ショーン。ここにいるのか!ショーン!」
息子はショーンという名前のようです。

何度か叩いていると、目前のガラスの向こう側に、女の姿が立ちはだかります。
周囲の村人が何歩か後ずさりしました。
「おい。俺の息子を返せ!」
「なんだあ。なんのことだあ」
女はおどろおどろしい口調でそう呟いたかと思うと、すぐに横を向き、部屋の中をうろうろ歩き始めます。

こいつ相手じゃあ、いっそうラチがあかん。
「こら、化け物!親玉を出せ!」
教室の窓ガラスの向こうには、霧のような煙が充満していました。
程なく、その煙の中から、壮年の男の姿が現れます。
「俺の息子を返せ。この野郎!」
私はその男に向かい叫びました。

男は首を傾け、体を揺らしながら答えます。
「今宵ここには誰も来ておらん」
「嘘をつけ。息子はどこだっ」

その時、入り口の方で動く気配がありました。
皆が揃って顔を向けると、息子が左右の人影に両腕を抱えられ、こちらにやってくるところでした。
息子の背中には、紐のような光の筋が後方に流れています。
ああ。まだ大丈夫だ。いわゆる世に言う「幽体離脱」って状態だ。

大急ぎで駆け寄り、息子を抱きかかえます。
はやく体に戻してやらなくては。まだ肉体の方に息があるうちに、この霊体を連れて行こう。
「ショーン。早く戻ろう」
両側の黒い霊たちが抵抗し、息子を引っ張っています。
放してなるものか。絶対に取り戻す。

私の意志が強く、息子を放さないことがわかると、霊たちは私の方を捕まえにかかります。
体中に、たくさんの手が張り付いています。
沼の中を歩くときのような重さを両足に感じます。

しかし、絶対に息子を放さないぞ。
俺の息子を連れて行かれてなるものか。
両腕にさらに力を込めます。

ここで覚醒。
この数日の間に、何度か霊を見てしまったため、夢にもその影響が出たようです。