息子と2人で夜道を歩いています。
息子は17歳くらいですが、現実にはおらず、この夢の中だけの存在です。
辺りは真っ暗。
海岸沿いを移動中に車が故障してしまいました。しかし、通っていたのは旧道で、深夜は車が通りません。
仕方なく2人で近くのスタンドまで歩くことにしたのです。
既に別のところにトンネルが開通しているため、街燈も点いているのはまばらです。
真っ暗な中を2人で歩きます。
「父さん。なんだか怖いよ」
息子の言うことは本当で、周囲に禍々しいものを感じます。
「しっかりしろ。心を強く持っていれば大丈夫だ」
「でも。周りには何かいるよ」
確かに、林や藪の中にうごめくものがありました。
「いつも言っているだろ。心さえ強く持てば、生きている者が一番強いんだよ」
息子の返事がありません。
後ろを振り返ると、息子の姿が消えていました。
いかん。連れて行かれたか。
暗闇ではラチがあかないため、道を走ります。
1キロくらい先には、小さい集落がありました。
最初の家に行き、戸を叩きました。
「息子が霊に捕まったようなので、救い出すのを手伝ってくれませんか」
その家の主人は、渋い表情でした。
「係わりあいになりたくないなあ。あの峠は昔から・・・」
「ばかもん。誰か分かる者はいないのか!」
叱咤された男は、急に目覚めたように、どこかに電話を掛けました。
程なく、初老の男がやってきます。
「昔からこの地では神隠しが起きる。場所は昔の中学校の跡だろう」
峠の中腹を海岸の方へ降りると、18年前に廃校になった学校があるとの由。
集落の住人7、8人と連れ立ち、その廃墟に向かいます。
懐中電燈を掲げ中に入ると、すぐ最初の教室の窓全面に目張りがしてあります。
ここか。
その窓ガラスをがしゃがしゃ叩きます。
「ショーン。ここにいるのか!ショーン!」
息子はショーンという名前のようです。
何度か叩いていると、目前のガラスの向こう側に、女の姿が立ちはだかります。
周囲の村人が何歩か後ずさりしました。
「おい。俺の息子を返せ!」
「なんだあ。なんのことだあ」
女はおどろおどろしい口調でそう呟いたかと思うと、すぐに横を向き、部屋の中をうろうろ歩き始めます。
こいつ相手じゃあ、いっそうラチがあかん。
「こら、化け物!親玉を出せ!」
教室の窓ガラスの向こうには、霧のような煙が充満していました。
程なく、その煙の中から、壮年の男の姿が現れます。
「俺の息子を返せ。この野郎!」
私はその男に向かい叫びました。
男は首を傾け、体を揺らしながら答えます。
「今宵ここには誰も来ておらん」
「嘘をつけ。息子はどこだっ」
その時、入り口の方で動く気配がありました。
皆が揃って顔を向けると、息子が左右の人影に両腕を抱えられ、こちらにやってくるところでした。
息子の背中には、紐のような光の筋が後方に流れています。
ああ。まだ大丈夫だ。いわゆる世に言う「幽体離脱」って状態だ。
大急ぎで駆け寄り、息子を抱きかかえます。
はやく体に戻してやらなくては。まだ肉体の方に息があるうちに、この霊体を連れて行こう。
「ショーン。早く戻ろう」
両側の黒い霊たちが抵抗し、息子を引っ張っています。
放してなるものか。絶対に取り戻す。
私の意志が強く、息子を放さないことがわかると、霊たちは私の方を捕まえにかかります。
体中に、たくさんの手が張り付いています。
沼の中を歩くときのような重さを両足に感じます。
しかし、絶対に息子を放さないぞ。
俺の息子を連れて行かれてなるものか。
両腕にさらに力を込めます。
ここで覚醒。
この数日の間に、何度か霊を見てしまったため、夢にもその影響が出たようです。