第5話(怪異譚) 芦名沢の小豆洗いの話 (玉山村馬場:現盛岡市の伝説)
昔話では、数多くの妖怪が現れる。これは、日本中で知らぬもののない有名な妖怪「小豆洗い」の話である。
盛岡から奥州街道を北に進み、半日すると渋民の宿に着く。ここで一休みし、さらに一里半ほど北上すると馬場街に着く。この馬場の南端の入り口には芦名橋という橋があるが、この芦名橋は沢目川が北上川に注ぐ、ちょうど合流点の上にある。
この橋の上に立つと、すぐ下に小さな地蔵堂が見える。
今は昔のこと。芦名橋のちょうど真下、北上川に注ぐ沢目川の岩のあるところに、化け物がいた。
夕方になると、ザックザックと小豆を研ぐ音をさせたので、通行人は皆恐ろしく思い、暗くなると誰も通ろうとしなかった。
そこで、ある山伏がこの化け物を追い払うため、そのすぐ近くの道端に石の地蔵さんを安置した。
すると、それから後、小豆洗いは絶えて出なくなった。
それから何年も経った頃のこと。ある馬喰(ばくろう)がここを通りかかった。
馬喰は朝に沼宮内を出発し、夕方までに盛岡に行こうとしていたが、ちょうど昼飯時だったので、道路わきの地蔵さんに重い財布を預けることとし、地蔵さんの頭から首に財布包みを掛けた。
昼飯を食べると、腹が一杯になり眠くなったので、馬喰はそのままそこで横になり少し昼寝をした。
眼が醒めてみると、既に八つ半(午後3時)どきである。馬喰は急いで南をさし歩き出した。
ちょうど渋民の宿に差し掛かった頃に、馬喰は地蔵さんの首に財布を掛け、そこに忘れてきたことを思い出した。大慌てで道を戻ったが、往復三里の道でもあり、馬場に戻る頃にはかなりの時間が過ぎていた。
「もはや誰かが持って行ったかもしれない」
はやる気持ちを抑えきれず、馬喰は地蔵さんに駆け寄った。
すると、地蔵さんは、首の財布をちゃんと背中に回し、目立たぬようにしておられたので、財布は無事であった。
馬喰は心から地蔵さんに感謝し、それからこの地を通る度にこの地蔵さんに供え物を捧げ、拝んだということである。
はい。どんとはれ。
<ひと口コメント>
芦名橋は私の生まれ育った家からわずか200辰曚匹琉銘屬砲△蠅泙后E狙發里箸り、この橋の袂には小さな地蔵堂が現存しています。慣れ親しんだ田舎の風景の中にこのような伝説があることを知り、私はこの話からイメージを膨らませ、「芦名橋」という天保飢饉の頃の小説にしました。
さわさわと流れる沢目川の音は、確かに小豆を研ぐ音のようにも聞こえます。
出典:玉山村『村誌たまやま』(昭和54年)
なお後段の馬喰の話は立花勇太郎という方の稿になるとの記載があります。