夢の話 第575夜 三角州の砂金
15日の朝4時に観た夢です。
夢の中の「オレ」は10%くらいが現実と重なっている。30歳くらいで独身だ。
春が来たので、金属探知機を取り出した。
オレは例年、桜が咲く頃に野山に分け入り、トレジャーハンティングをすることにしていた。
これで渓流を見て回り、釣りシーズンに備えるためだ。まずは何事も準備が大切だから、いつも下見から始めているわけだ。
沢目川は姫神山から北上川に流れ落ちる小さな川だ。
川幅も数メートルほどで、小川程度。
ところがオレにとってこの川が重要なのは、意外とヤマメが釣れることと、「姫神山から流れ落ちている」という事実があるからだ。
姫神山は中世では重要な金山で、奥州藤原氏の黄金文化を支える原動力だった。
江戸時代には砂金も取れなくなり、徐々に衰退したわけだが、川砂を浚ってみると、金泥が少し残る。
金の鉱脈としては採算が取れぬが、まだ幾らかは残っているわけだ。
この沢目川が北上川と合流するところに、芦名橋が架かっている。
橋の袂には地蔵堂があり、妖怪の「小豆洗い」を鎮めるために立てられたものだと聞く。
この芦名橋を潜り、北上川に出ると、すぐに砂州がある。
この砂州付近は、長年、「一度は確かめてみたい」と思っていた。
北上川が氾濫すると、上流から流れて来た土砂がここに溜まる。
上流の山で切り出した材木が流されて来ると、ここに漂着して山を成したから、昔の住人はそれを拾って財を成したという。
川に流れて来た材木は、概ね拾った人のものになるからだ。
やはりゴミも流れて来て、ここに溜まる。
子どもの頃、オレはここで木箱を拾ったが、中身は封筒や書類だった。
封筒に昔の切手が貼ってあったので、それを取ろうと引っ張り出したら、中に札が入っていた。
無論、昔の札で明治時代のものだった。
そんなこともあって、ここの砂州で金属探知機を掛けてみたいと思っていたのだ。
オレは生来、勘が働く方だ。
道を歩いていて、金をよく拾うが、事前に「この先に落ちている」と分かっていたりする。
もちろん、良いことばかりではなく、海釣りをしている時に、ぞわぞわと背筋がそそけだったこともある。
すぐに竿に魚が掛かったのだが、それは魚ではなく土左衛門だった。
「今回も絶対何かある。きっと金だ」
オレの頭には、既にその時の情景が見えている。
砂の上に機械を当てていると、突然、けたたましく音が鳴り始める。
オレがシャベルでそこを掘ると、十五センチも行かぬうちに、大きな金塊が姿を現す。
そんなイメージだ。
数十年ぶりに、沢目川に降り立ち、橋の下を潜った。
腰までのゴム長を穿いているが、足の付け根まで水に浸かった。
そのまま進んで行くと、まずは草原に出て、その先に砂州がある。
「随分かたちが変わったなあ」
ま、あの地震のせいだ。
地震が来た時に、川沿いの土地が崩れ、土砂が流された。
それで地形が変わったのだ。
「でもそれは、今のオレにとっては役に立つ。今まで探れなかった地面の下の方まで探せるということだからな」
機械にスイッチを入れて、探索を始める。
すると、やはりいつものようにぞわぞわと予感がした。
「まるで、金塊が自分のことを見つけてくれと言っているみたいだな」
きっと、オレのことを呼んでいるのだ。
なら、ここからは直感だけでいい。
オレは目を瞑って、オレを呼んでいる方向に足を進めた。
十歩も歩かぬうちに、ワンワンと探知機が声を上げ始めた。
「スゴイ。このけたたましい鳴り方は、金以外の何物でもない」
今の探知機は、地面に埋まっているのが、金なのか銀なのか、あるいは銅鉄の卑金属なのかが分かる。
また、深さもどれくらいか、見当が付くようになっている。
「すぐ下だよな。スコップは要らんようだ」
オレは園芸用の小さなシャベルを取り出すと、それで砂を掻き分けた。
すると、わずか15センチの深さのところで、金色に輝くものが出て来た。
黄金の指輪だった。
オレの直感は正しかったのだ。
だが、オレは大きく溜息をついて、携帯電話を取り出した。
電話を掛ける相手は警察だった。
オレはオレの直感の通り、この川の砂州から金の指輪を掘り出した。
そして、その指輪には人の指の骨が入っていたのだ。
この先の土の中には、きっと腕や胴体の骨が繋がっている。
「上流で溺れた人がここに流れ着き、今まで眠っていたんだな」
金がオレを呼んでいたのではない。この死んだ人が自分を見つけて欲しくて、オレを呼んだのだった。
我ながら、オレの第六感は半端ない。
つくづく溜息が出る。
ここで覚醒。