日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第179夜 幽霊マンション

夕食後、ついテレビの前で寝入ってしまいました。
これはその時に見た夢です。

私の前には、女性2人と若い男性。
女性たちは母娘のようです。

「2LDKで、駅まで5分。都心まで20分以内で行けるのに、家賃が6万円。もの凄く安いよね」
「部屋もきれいだね」
女たちの会話に、男性が口を入れます。男性は不動産屋の社員でした。
「そうですよ。こんな物件はめったに出ないですよ。今は引っ越しシーズンを終えたばかりで、急に空いたから、こんなにお安くご提供できるのです」
ここで、娘のほうが奥の部屋に続く襖を開けます。
「こっちが東側ね。日差しが明るいし、とても良い部屋じゃない」
「本当だね」と母親。

一旦、台所に戻り、水回りを確認します。
「全然、問題ないじゃない。換気扇やレンジの周りもきれいにしてあるし」
娘が蛇口をひねると、シャアッと水が出ました。
「そうです。壁紙も全部張り替えたんですよ」
母親は二人の三歩後ろに下がっていました。
「あなたが住むんだから、ここに住むかどうかは自分で決めるのよ」
中越しに、娘に声を掛けますが、すぐに奥の部屋のほうを向きました。

「明るいし、とても良い部屋なのよね。防犯システムもばっちりだから、女の子1人でも大丈夫」
母親は呟くように独り言を言っています。
16階建てのマンションで、表玄関はオートロックでした。
ここで、三人でまた畳の部屋に戻ります。
「すぐ下は並木道で、きれいですよ」
「本当だわ」
この建物の周囲には、高層マンションが数棟あるだけで、遠くまで見渡すことが出来ます。
「生活環境としては、なかなかないですよ」

男性と娘は窓の外を眺めていますが、母親独りが部屋の中を見ています。
「でも、なんだかここ・・・」
何か納得できないところがあるようです。
娘が母親のほうに近づきます。
「また?お母さんはいつでも、どこでも気に入らないことがあるのね」
二人はもう何軒も回って歩いているようです。

「でも、どこか変な感じがする」
「またまた始まった。その調子なら何時までたっても決められない」
母親は、部屋中を見回して、違和感の原因を探ろうとしています。
「どこだろ」

娘はあきれたような表情で、隣の男性に顔を向けます。
男性の表情が強張っていますが、娘は気づきません。
もう一度、娘が母親のほうに向き直ります。母親はじっと押入れを見ていました。
「ここが、なんだか気持ち悪い」
娘はあきれたように「ふうっ」とため息を吐きました。

「まったくもう。お母さんたら。押入れの中にお化けでもいるって言うの!じゃあ、今開けてみせるから、そこで見てて」
母親が慌てて娘を制止します。
「やめて。やめて。開けないで」
「何言ってんの」
娘が押入れに近づきました。
「いい?開けるわよ」

「待ってください!」
ここで声を上げたのは、不動産会社の男性でした。
「すいません。黙っていました」
「え」と二人が男性のほうを向きました。
男性が頭を下げます。
「ここはいわくのある部屋でした。半年前にちょっとした事件があった部屋です」
「・・・」
「申し訳ありません。条件が良いうえに、このように内装も改めましたので、ご案内させていただいた次第です」
母親はむっとした表情に変わりました。
「そういうことは、事前に言ってもらわないと・・・」
「すいません」
娘のほうは、平気な顔をしています。
「全然、変なところがないのにね。何か残念な感じ」
その部屋は殺人事件が起きた場所で、妻を殺した夫は、妻の死体を押入れに隠したとの話です。

「早く出ましょう」
「わかったわ、お母さん」
「はい」
三人は入り口のドアを開け、部屋から出て行きました。
部屋の中には、私1人が残されます。
私は台所と奥の部屋の境目に立ち、そのいわくのある押入れをじっと眺めています。

ここで覚醒。

この夢は、十数年前に叔母と従妹が実際に経験した話です。
「あそこの部屋に住んでいたら、どうなるのかしら」と叔母に訊かれたことが、記憶に残っていたのだろうと思います。
私の答えは「従妹が住む分には、特別何も起きず、普通に暮らせる。叔母さんは近寄らないほうがよい」でした。
幽霊は相手を選んで現れるものだし、接点の無い者は、そういう悪縁とはまったく関わりを持たずに暮らせます。

ここでの疑問は、夢の中での私の立ち位置です。
三人は私がまったく存在しないようなふるまい方をしていました。
私はもしや、幽霊側の立場だったのでは。