朝方に見た夢です。
自分は27歳くらい。
お酒をしたたかに飲んだ後、店がはねたホステスと食事をしました。
その後、タクシーでそのホステスのマンションまで送りました。
「じゃあ、また今度ね」
開いたドアから手を振ると、ホステスは「悪いけど、部屋まで送ってくれない?」と覗き込みました。
(あれ。こりゃ、脈があるかも。)
少しエッチな妄想を抱きながら、そそくさとタクシーを降ります。
マンションの玄関は、ラーメン店や不動産屋などの並びの横にありました。
「私。自分の住んでるマンションの入り口がなぜかコワイの」
玄関を入ると、すぐにエレベーターがあります。
「やだやだ」
女性は私の腕にしがみつくように掴まりました。
何事も無くエレベータに乗り、5階に着きました。
「私の部屋は3つ目よ」
ドアの前まで一緒に歩きました。
「どうもありがと。じゃあまたね」
(ありゃりゃ。入れてくれるわけじゃあないわけ?)
ま、いいか。
もう一度廊下を戻り、エレベーターで下に降ります。
「いったい、何が怖いんだろうな」
左右にドアが開きました。
玄関に向かって歩き出すと、1階の住人らしき人が自分の部屋に向かう姿が見えました。
その男性は私に背中を向け、ゆっくりと遠ざかって行きます。
(チンドン屋さんか。あるいはホテルのドアマンみたいな恰好だな。)
ここの駅前にはパチンコ屋さんがありますが、時々店の前でチンドン屋さんが鳴り物を鳴らしていました。
数日後、また同じ店に行きました。
ホステスも前と同じH美を指名します。
「こないだはどうもありがとね」
(そういや、少しだけモヤっとさせられたんだよな。)
「別に普通のマンションなのに、何が怖いの?変態でも出るわけ?」
「何ということもないんだけど、エレベーターに出入りするときに、寒気がするのよね」
「じゃあ、今日も送ってこうか」
「どうもありがと。すごく助かる」
こちらは少なからず下心があるので、けして悪くない話です。いずれそのうち、部屋の中に入るでしょ。
店が終わった後、やはりタクシーでH美を送りました。
当たり前のように、二人一緒に降り、玄関に向かいます。
先だってのように、H美は私の腕を強く掴みました。
玄関を入り、真っ直ぐ奥のエレベーターの前に進みます。
エレベーターは十階に止まっていたので、これが降りて来るまでドアの前で待ちます。
なかなか降りてきません。
途中の階で何度も止まっています。
「なかなか来ないね」
「ウン」
何気なく横を向きます。
エレベーターのすぐ横には階段がありました。
すると、その階段に女の人が立っているのが見えました。
「見えた」と言っても、ほんの少し。
エレベータの陰に、頭と髪の毛がちらっと見えただけで、すぐに女の人は階段の奥に隠れました。
(階段のところに座っていたんだな。何か哀しいことでもあって、泣いていたのかも。)
このマンションは水商売の女性が何人か住んでいるところです。
ま、見ないようにしてあげないとね。
でも、人の気配がまったくしません。
「おかしいな。階段を上ってはいないのに」
数歩歩いて、階段の奥が見える位置に移動しますが、そこには誰もいませんでした。
何か嫌な気がします。
エレベーターが来たので、H美と一緒に中に入りました。
5階に上り、H美の部屋の前まで送ります。
「どうもありがと。ねえ、お茶でも飲んでく?」
せっかく誘ってくれたのに、先ほどのことが頭にあり、すっかりその気が失せていました。
「今日はもう遅いから帰るよ」
「そう。じゃあね」
エレベータに乗り、階下に降ります。
頭の中は、先ほど垣間見た女のことで一杯です。
H美にはとても言えませんでしたが、あれは人間じゃない。
正確には、生きた人間じゃない。
また下にいたりしたら嫌だよな。
1階に着き、エレベータのドアが開きます。
ドキドキしながら、玄関に歩き出しました。
1階の廊下に人の気配があったので、横目でそっちを追うと、先日のチンドン屋の男性でした。
「良かった。またあの女だったらどうしようかと思ったぜ」
思わず口に出して言っていました。
ふう。
チンドン屋さんが、廊下の端に着き、角を曲がります。
その時、横を向いたので、帽子の前のかたちが見えました。
「何あれ!兵隊の格好じゃん」
その男性は昔の陸軍の制服を着ていたのです。
「うひゃあ。勘弁してくれよ」
私はその場を、全速力で走り去りました。
1キロくらい走り、ようやく足を止めました。
「あそこのマンション。幽霊だらけだ」
ハアハアと息が切れます。
ここで覚醒。
細部に違うところがありますが、この夢は、昔、実際に経験したことをなぞる夢でした。
後で人に聞いたのですが、そこは戦争の時、空襲があり、焼け野原になったところです。
火事で何人もの人が亡くなったとのことでした。
やはり、その後は何となくH美の店から足が遠ざかりました。
送って行くのが嫌だったからだろうと思います。