日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第221夜 雪のレストハウス

眼を開くと、車の中にいました。
「ここはどこ?」
窓から外を眺めます。
外は駐車場のような場所で、200台くらい停められるスペースがあります。
コンクリートの駐車上の周りは、ほぼ雪景色。
遠くの方は真っ白です。

車を降りて、外に出て見ました。
20メートルほど歩くと、手すりがあります。
手すりの向こうには、半ば凍りついた湖が広がっていました。

「なんでこんなところに」
ふう、と息を吐くと、白い水煙が空中に拡散します。

湖の反対側は山で、やはり雪で覆われています。
視線を下に戻すと、駐車場の端にレストハウスが見えます。
「トイレに寄ってから、コーヒーでも飲もう」
歩み寄るのですが、レストハウスは休業中でした。
入り口付近には屋根から落ちた雪が山積みで、営業していた気配がありません。
「きっと、冬の間は店を閉めるんだな」
店の横にあるトイレに向かいます。

トイレの中は、人の気配が無いのにも関わらず清潔で、しかも暖かでした。
「ありゃ。暖房が入っているのかな」
人気は無いのに、暖房が入っています。
「掃除する人さえ来ないだろうに、不思議だよな」
用を済ませ、手を洗います。

「ところで、俺は何しにここに来たんだろ」
何ひとつ思い出せません。
ま、いいか。車に乗ってれば、じきに思い出すだろ。

トイレの出口のドアを押し開けます。
「眩しい!」
直射日光に眼を射ぬかれ、思わず両目を瞑りました。

右手を額にかざし、ゆっくりと眼を開けます。
すると、先ほどまでとは、外の景色が一変していました。
先ほどは、辺り一面が雪景色でした。

ところが、ドアの外は緑色です。
「ありゃりゃ。何だこれ」
どう見ても、初夏の景色に変わっています。
山には木々がうっそうと茂り、遠くの湖面が青く輝いていました。
思わずよろよろと駐車場に歩き出しました。

空では、何か鳥たちがさえずっています。
暖かな風が吹いていたので、ダウンジャケットを脱ぎました。

トイレの近くには、白い車が1台泊まっていました。
セダン型で、昔、私が乗っていた車と同じタイプです。
「あれ?」
車の後ろのバンパーに近くに、細い傷が見えます。
それも、かつての私の車とそっくりです。
「そう言えば、ファミレスの駐車場でうっかり隣の車を擦ったら、大型のベンツだったから、大慌てで逃げたんだったよな」
その傷とそっくりです。
その車に近寄って、傷を確かめます。
傷の奥には、黒い塗料が見えていました。
「こりゃ、いよいよ、俺のとそっくりだ」

その時、トイレの方で物音がしました。
いけね。この車の持ち主が車に戻ろうとしてるんだな。
悪戯をしていると思われたら面倒です。
大慌てて、自分の車に戻り、運転席に座ります。
あちらの車の人たちに気づかれないよう、顔を反対側にそむけました。

男の子の声が聞こえます。
「お父さん。今日はどこまで行くの?」
「この湖の向こう側に山があって、そこを越えるとお祖父ちゃんちに近道なんだよ。だから、この湖を少し見物したら、お祖父ちゃんちに行こう」
「ウン。わかった」

どこかで聞いたことがあるなあ。どこだっけ。
しばらくの間考えます。
私が思案していると、向こうの車に、お母さんらしき女性が戻って来ました。
直視するわけには行きませんので、ほんの一瞬だけちら見しました。

私はその女性に記憶がありました。
微かですが、声に憶えがあります。
「でも、誰だっけな。思い出せない」
そのお母さんだけでなく、男の子にも、前に会ったことがあるような気がします。
いったい、誰なんだろ。この人たち。

3人は白いセダンに乗り、出発していきます。
その車は湖の向こう岸まで見えていましたが、程なく姿を消しました。

「山を越えて、お祖父ちゃんちに行く、と言ってたな」
その山の道は、大きく曲がりくねっていて、対向車が見えなかったよな。
林業が盛んな村だから、大型トラックも行き来しています。

私の頭の中では、ひとつのイメージが湧いてきました。
そのセダンが道を進んで行くと、山の陰から突然、トラックが現れるのです。
「うわ」と父親が呻きます。
「きゃあ」と母親が叫びます。
がっしゃーん。
白いセダンは、トラックと正面衝突してしまいます。

「ああ。だめだ。ケンイチ。ケンイチ!」
私は思わず叫んでいました。
「ケンイチ。死ぬな」

なんてことだ。
先ほど、このレストハウスの駐車場にいたのは、私の家族でした。
私と妻と、そして1人息子のケンイチです。

そう言えば、去年の夏に、私は妻子と共にこの湖に来たのです。
このレストハウスのトイレに寄り、山を越える途中で交通事故に遭遇したのでした。
「すると・・・。妻は。ケンイチは・・・」
その答えを私は、十分過ぎるほど知っています。

「そうか。俺はこのためにここに来たんだったな」
人気の無い湖を訪れた理由がわかりました。
後ろの座席を振り返ると、練炭の入った七輪が置いてあります。
外では、びゅうびゅうと風が吹き、「チチチ」と雪が窓に当たる音が聞こえます。

ここで覚醒。

つい数日前に、名栗湖に行きましたが、その時に沸いた「冬の湖」のイメージを、改めて夢で見たもののようです。