日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第239夜 「ずっと探していました」

翌日は早朝から用事があり、早めに眠りに就いたのですが、その時に見た夢です。

出張で北国を訪れた。
はるか昔、就職したばかりの頃、1年ほど住んでいたことがある。
その時は研修のため、2か月ごとに外国に出張していた。

中級レベルのホテルに部屋を取った。
もはや夜遅くで、ホテルの中のレストランは閉まっている。
腹が減っていたので、ひとまず外に出ることにした。
殺風景な街で、商店の数もまばらだ。

半キロ近く歩き、ようやくレストランを見つけた。
ロシア料理店だ。
小窓が1つ2つ見えるだけで、箱型の建物だった。

中に入ると、まず待合室があり、そこのソファに座らされる。
内側にもさらにドアがあるが、ガラス張りなので中の様子が見える。
客が沢山いるようで、店は繁盛しているらしい。
何気なく眺めていると、客の間に女性たちが混じっている。
衣装の感じからして、客の連れではないようだ。
「あれれ。ここって本当にレストラン?」
ごく若い頃に、東南アジアの街で「コーヒーショップ」という看板を頼りに中に入ったことがある。
中には飾り段があり、30人くらいの女性たちが座っていた。
女性はホステスで、酒の後で外に連れ出すことも可能だ。
看板と営業の実態がかけ離れていることがあるのだ。

支配人か店長のような男がやってくる。
「指名料が○○円で、女の子を店外に連れ出すと〇〇円です。あとはその子に聞いてください」
やっぱりその手の店だったか。
後で面倒事にならないように、早めに断ったほうが良さそうだ。
「私はレストランという看板を見て、この店に入ったのです。ただ食事がしたいだけなんだけど」
これに、40歳前後と思しき店長が、意外にさわやかな印象の笑顔を見せた。
「ああ、大丈夫ですよ。ここは食事も出しています。女の子の指名も無しでOKです。ここは最果ての街で、お客さんは船員の方が多いのです。半年も舟の上にいれば、人肌が恋しくなるもんでして。いつの間にか、こんな風に営業内容が変わっていたのです。どうぞどうぞ。この街には、こんな夜遅くに食事の出来るレストランは他にありませんよ。さあ、テーブルについてください」

内側のドアを開くと、「わあっと」いう喧騒が流れ出てきた。
大騒ぎをしている酔客をよそに、私は隅の席に座った。
この席は、ちょうど店の外観を眺めた時に、小窓が見えていたあたりだ。
通路側の席に座ると、その小窓から外が少し見える。

食事には、スープとパンと、簡単な肉料理を頼んだ。
これが意外に美味い。
「なるほど。元々はレストランか。あの店長の話は本当なんだな」
食事を終え、コーヒーを飲んでいると、何となく私のことを見ている視線を感じた。

「誰だろ?」
店の中に眼をやると、少し離れた席に座っていた女性が、私をじっと見ていた。
齢の頃は40代の前半くらい。
夜働く女性の割には、少し齢を食っている。

しばらくすると、その女性がつかつかと私の席に歩み寄った。
「シンジロー」
私の名前は「新次郎」で、呼ばれた通りの名である。
「え?」と女性を見上げる。
「シンジロー。ずっと探していたわ。私はイリーナよ。憶えている?」

その言葉で思い出した。
私がこの町に住んでいたのは、20年以上も前のことだ。
その頃、研修で色んな国に行ったが、北極圏のある田舎町で、確かにイリーナという娘に会ったことがある。
ほっそりとした娘で、すこぶる美人だった。
イリーナは私が滞在していた宿屋の娘で、毎日、朝食と夕食を出してもらっていた。
私が滞在したのはほぼ2カ月だが、その間に私とイリーナは恋に落ちたのだ。

あとはお決まりのパターンだ。
2人とも相手が恋しくてたまらないが、私は程なく帰国しなくてはならない。
また、イリーナには病気の母親がいたので、その母親を看病しなくてはならなかった。
このため、私の国にイリーナを連れ帰るわけには行かなかったのだ。
行き着くところは、結局は「涙の別れ」だ。

それから20年もの月日が経った。
「シンジローが帰ってから、3年後に母が死んだ。私はどうしてもシンジローのことが忘れられなかったので、この国に来たの。どこを探していいかわからなかったから、昔、シンジローが口にした街の名前を頼りにここに来たの。それからずっと長い間、私はあなたを待っていた」
イリーナの語る人生は、まさに衝撃的だった。
言葉が出ない。
あの時の娘が、私を探すためにこの国に来て、20年間もずっとそのことだけを考えて生きて来たのだ。
自分自身のあまりの薄情さに、思わず涙が出て来る。
だって、私は帰国して数年が経つ頃には、イリーナが存在したことすら忘れてしまったのだ。

その後の人生の影響か、イリーナに昔の面影は無くなっていた。
体重は、おそらくあの頃の2倍はあるだろう。
さらに、異国で生きて行くために、テーブルで酔客の相手をするだけでなく、客に連れ出される仕事も受けるようになったのだ。
でも、そうなったのは、私のためだ。
もう一度、私に会うためだけに、この女性のそれからの人生はあったのだ。

私はかつて経験したことがないくらい狼狽し、深く心を痛めた。
「待たせて済まなかった。これからはずっとお前と一緒にいよう」
私がそう言うことを、目の前のイリーナが今も願っているかどうかは、わからない。

だが、今の私には、妻と子供たちが待つ家がある。
果たしてこれから私は一体どうすればいいのか。

「シンジロー。お前は一体、この状況をどう打開するのだ?」

ここで覚醒。

夢の中では、知人の「シンジロー」という名前の人の外見を借りていました。
この夢にいったいどのような示唆があるのかは、まったく想像がつきません。