夜中に仕事をしており、ひと休みしようと腰を下ろしたら、そのまま居眠りをしました。
これはその時に観た短い夢です。
目を覚ますと、居間の床に横になっていた。
「どうやら寝込んでいたらしいな」
部屋の中は灯りが消えていて、薄暗い。
しかし、窓のカーテンから光が漏れていて、今が朝方だということがわかる。
おおよそ4時少し前くらいか。
次第に目が慣れてきて、部屋の様子が見えて来る。
すると、部屋の反対側の長椅子に、誰かが座っていた。
その黒い人影は妻や子どもたちではなかった。
(コイツは誰だよ。)
ゆっくりと起き上がる。
(もし泥棒の類なら、いつも準備している通り、これ幸いと殺してしまおう。)
起きている時は、「痛めつけよう」だが、やはり夢の中なので、考えることはさらに過激になる。
椅子に座っているのは誰なのかを見極めようと、目を凝らす。
しかし、男なのか女なのかさえも分からない。
オレの横、テレビの脇には、バールが隠してある。
オレはゆっくりとそのバールの方に手を伸ばす。
工具はいつも通りそこにあった。
(いざとなったら、これで・・・。)
黒い人影はしばらくじっとしていたが、突然、口を開いた。
「おい。もう神社に行くのをやめろ」
え?
なんだ、コイツ。
悪霊か。
オレはその方面には敏感な方で、色んなところに出かけては、「お友だち」を連れ帰る。
もちろん、望んでそうなっているわけではない。
あちら側が、オレのことを自分自身だと錯覚して、ついて来るのだ。
この辺はちと説明が難しい。
オレはもちろん、オレの心で感じ、オレの頭で考えている。
かたや悪霊は既に死んでおり、頭を持っていないので、論理的に考えることができない。
そこで、オレの心に入り込み、オレの頭で考えるのだ。
すなわち、オレはオレだが、悪霊の方もオレのことを自分だと思っている。
かなりややこしい。
目の前にいるこの悪霊は、いつの間にかオレに寄り添っていたと言うわけだ。
それが、オレが毎日のように神社に行くようになったので、苦しがっているのだ。
黒い塊が、再び口を開く。
「もう神社に行くのをやめろ。ひどい目に遭わせるぞ」
こういう脅し文句は、オレには通用しないよな。
力でどうにかしようという奴は、トコトン痛めつけることにしている。
立ち上がって、近くに行こうとするが、オレの体は動かない。
ここで、「今、自分は夢の中にいる」ってことに気付いた。
「あ。オレは寝てるんだ。体が眠っているから、手足が動かない」
こりゃ、あと何分かはかかりそう。
指先に集中し、少しずつ動かそうとしてみる。
黒い塊がもう一度呟く。
「もうやめろ。行くな」
さっきより、おどろおどろしい感じが減っている。
「コイツ。弱っているわけだな」
なるほど。神社にお参りに行くことには、こういう直接的なご利益があるわけだな。
もちろん、ただ出入りするだけではダメで、信じなくては力は出ない。
死後の存在を信じない者がお守りを持っても、何ひとつ効力はないが、それと同じだ。
幸い、オレは「死んでもそこで終わりではない」ことを知っている。
「なら、集中すれば追い払えるだろ」
数秒後、指の先にほんの少しだけ感覚が戻って来た。
ここで覚醒。
目が醒めると、夢の中と同じ居間にいて、同じ場所に横になっていました。
向こう側の長椅子には、もちろん、誰も座っていません。
時計を見ると、午前4時過ぎ。
同時進行?で夢を観ていたようです。