日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第261夜 梟

日曜の夜にテレビの前で寝入ってしまいました。
わずか20分ほどですが、これはその時に観た夢です。

眼がよく見えないので、部屋の中でじっとしている。
窓の外は薄暗い。
これから夜が明けるのか。あるいは日が沈むのか、よくわからない。
しかし、眼がよく見えなくなってからは、明るさはどうでも良くなった。

ここはたぶん山小屋だ。
人が来なくなり、すっかり寂れた別荘地の片隅にあった古い家を買ってあったのだ。
ここなら、間近な商店に頼んでおけば、必要な物を届けてくれる。

新鮮な空気を吸いに外に出た。
家の前には、丸太で作った椅子とテーブルがある。
椅子に座った。

高原の別荘地なので、朝夕はかなり冷える。
冷たい風が静かに流れている。

音がして、テーブルの向かい側に何かが座った。
この家に近づこうとする足音など聞こえなかったのに。
カサカサと衣擦れのような音がする。

「どちらさんで?」
初老の男に似つかわしい言葉遣いだ。
オレはきっと60台の後ろの方だ。
声を掛けても、相手は何も答えない。

「道にでも迷ったのかい」
オレの家は登山口の近くだから、朝と夕方は上り下りする登山客が近くを歩く。
この辺では、時々、山歩きの客が道に迷うことがある。
暗くなってから、疲れて青い顔をした人が降りて来るのだ。
相手が「ホウ」とため息を吐いた。
やっぱりそうか。
歩き回って、疲れ果てて、この家に辿り着いたのだ。

「念のため訊くけど、生きてる人なの?」
変な質問だが、ここには山で死んだ人の幽霊も時々現れるのだ。
パサパサと身じろぎの音がした。
服の擦れる音じゃないな。
まるで、鳥の羽が擦れる音のようだ。
子どもの頃、家に雉の羽があったけれど、これを擦り合わせるとちょうどこんな音がしたっけな。

「冗談だよ。疲れているでしょう。ここで一休みしてから行くと良いよ」
ま、やはり下山が遅くなった登山客だろ。
「何か飲むかい?」
やはり返事は無い。
しかし、この時間帯に山にいたなら、体が冷えているはずだ。
オレは家の中に戻り、牛乳を温めた。

ホットミルクのカップを持って出て来ると、相手はまだテーブルについていた。
薄暗がりの中、相手の姿は見えないが、気配はしっかり伝わってくる。
「はい。暖かいミルク。体が温まるよ」
テーブルの向こう側にカップを押しやる。

しばらく経ったが、その相手がミルクを飲む気配はない。
何もせず、ただそこに座っているのだ。
おかしいな。どうやら道に迷った登山客じゃあないようだ。
何しにここに来たんだろ。

「待っているんだよ」
唐突にそいつが口を開いた。
え。頭の中で考えたことなのに、返事をしやがった。
コイツ。「サトリ」って妖怪か。

「違うよ」
またそいつが答える。
「お前。何者なんだよ」
「オレか。オレはお前がよく知る者だよ」
「問答を持ちかけるんじゃないよ。はっきり言え」
「見りゃ分かるだろ」
だんだん腹が立ってきた。
「オレはね。目の病気で前がよく見えないんだよ。お前が誰かを確かめることも容易じゃない」
「灯りを持って来れば?それなら少しは見えるだろ」
何で知ってるんだよ。周りを明るくすると、前に何があるかくらいは見える。

そこで、もう一度家の中に戻り、カンテラを持って来た。
片手にはステッキだ。
腹が立ったので、そのステッキでガツンとやってやろうと思ったのだ。
カンテラをテーブルに置き、灯りを点けた。
回りがふわっと明るくなる。

驚いた。
テーブルの向こう側に座っていたのは、大きな梟だった。
頭から足まで2メートルはありそうだ。
梟は2つの大きな瞳で、オレのことをじっと見詰めている。
「ああ、びっくりした」
思わずオレはそう洩らした。
驚いたオレの表情を見て、梟が「ホホホ」と笑った。

コイツ。何しに来たんだろ。
オレは頭の中でそう考えた。
梟がオレの考えを読む前に、オレは先に気づいた。
「梟は冥界の使者だ。コイツはこのオレを迎えに来たのだ」
オレがそう呟くと、梟は「そうだ」と言わんばかりに瞬きをした。

ここで覚醒。