日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第482夜 トラブルメーカー

夢の話 第482夜 トラブルメーカー

 眼を開くと、オレは長椅子の上で横になっていた。
 「ここはどこだよ」
 どうやら事務所の中らしい。
 「でも、どこの事務所だろ」
 窓には厚いカーテンがかかっている。
 起き上がって窓の所に行き、カーテンを引き開ける。
 「夜なんだな」
 たぶん、仕事が遅くなり、少し休もうと長椅子に座ったら、そのまま横に倒れて寝ちまったんだろ。
 テーブルの上には工具箱があり、スパナやレンチが散らばっていた。
 その隣にはフルーツを持った籠が置いてある。
 壁を見ると時計が架かっている。時刻は12時45分だった。
 「してみると、今は夜中の12時ということか」
 これじゃあ、家に帰るのにはぎりぎりの時間だ。
 1時過ぎまでは電車が動いているが、それも途中までだ。オレの下りる駅までふた駅は歩かねばならない。

 ここで、オレの頭に妻の姿が浮かんで来た。
 妻は小さい子ども2人をあやしながら、オレのことを待っている。
 「なんとか家に帰って、妻を眠らせてやらねばならないな」
 子どもたちは2歳とゼロ歳なので、手が掛かる。
 夜は夫婦で交替しないと、片方の親が参ってしまう。
 「ガシャ」
 唐突に入り口のドアの鍵が開く音がした。
 「何だろう。この時間に」
 すぐにドアの前に行ってみた。
 ドアが開くと、男が顔を出した。
 「うわ」
 驚いているのは、その男の方だ。
 「残業してらしたんですか」
 男の身なりを見ると、制服姿だった。
 ガードマンなのか。
 「夜はカーテンを閉めてるからね。真っ暗だから誰もいないと思ったでしょ」
 「すいません。声も掛けずに開けちゃって。下の階から『水漏れがしている』という連絡がありましたので、慌てて見に来たんです」
 「ここには別段異常はないですよ」
 なんか変だな。水漏れがしたなら、先にその部屋の方を確認し、位置を確かめた上で、上に来るだろう。それも、調整できる者と一緒にだ。
 いきなりガードマンが鍵を開けて入って来るものかな。
 男の手元を見ると、鍵束のようなものは持っていなかった。
 頭の中で思考がくるくると回り始める。
 「空き巣に入る時、泥棒はスーツを着ると言う。近所の人に見られても不審に思われぬためだ。ビル荒らしならどうだろ」
 ガードマンの格好だよな。
 そう言えば、このビルも度々荒らされている。この事務所だってそうだ。
 最近では、事務所の中に金品を置かぬようにしているが、ノートPCとか金に換えられる品はまだ沢山ある。
 こんな風にオレが何かを考えているのを、男が気付いたらしい。
 「異常が無いのであれば結構です。他の部屋を当たってみます」
 それじゃあ、なおさら変だぞ。
 まるで、予想していない事態だから退却するって感じだな。
 「中を点検していかないの。ひとまず見て行ったら」
 男を中に招き入れる。
 オレの言葉に応じ、男が中に入って来る。
 そこでオレはもう一度男の身なりを確認した。
 男が持っていたのは、懐中電灯とポーチみたいな物入れだけだった。
 「ありゃ」
 男の足元に目をやると、男が履いていたのはスニーカーだった。
 こりゃ絶対に怪しい。
 ガードマンの制服を着ているのに、スニーカーを履いてたりするわけ?
 それから、男と一緒に洗面所やトイレを点検した。
 「何も無いようですね」
 「あと奥の部屋にも炊事室があるけど、奥には部外者を入れない決まりだから、少しここで座って待っていて下さい」
 「奥の部屋」とは、さっきまでオレが寝ていた部屋だ。

 オレはその部屋に戻ると、テーブルの工具の中から長スパナを拾った。
 「前に事務所を荒らされて、それから十年以上も苦しめられた。仇を返す良い機会だよな」
 スパナを後ろ腰に差し、フルーツ籠からリンゴを2つ取り出した。
 前の部屋に戻ると、男は言われた通りに座っていた。
 愚かなヤツだ。もし泥棒なら、オレが目を離した隙にとっとと逃げ出せばいいのに。
 「ってことは」
 まだ、自分が掴まるとは思っていないんだな。
 オレは男に近付きながら声を掛ける。
 「やはり何もありませんでしたね。どうも御苦労さまでした。夜遅く大変ですね。こんなものしかありませんが、どうぞ召し上がってください」
 リンゴを2個差し出すと、男はそれを両手で受け取った。
 「こりゃどうもスイマセン」
 「いえいえ」と言いながら、オレは後ろ腰から長スパナを抜いた。

 (ここで一旦トイレに起き、戻ってまた眠ったのですが、次の夢はほぼ前の夢の続きでした。)

 眼を開くと、電車に乗っていた。
 腕時計を見ると、午後の3時だった。
 「そう言えば、あれから警察に泥棒を突き出して、その事情聴取で半日掛かったんだった」
 警察官の言葉が甦る。
 「いくら相手が事務所荒らしだって、あれじゃあやり過ぎですよ」
 そう言えば、オレはスパナで男の膝を折ってから警察に通報し、警官が来るまでの間、ずっと男を殴ったのだった。
 「オレは事務所荒らしにやられたおかげで、危うく一家心中になるところだった。泥棒とか金をごまかす奴には容赦しない」
 万引きを見つけると、すぐに捕まえて、店の人より先に警察に連絡する。
 賄賂とかなどの不正も同じ。証拠を押さえて、バリバリ摘発する。
 「そういう機会があったら、泥棒の耳を削ごうと思っていたから、今回はまだ自制心があった方だよな」
 泥棒へ厳しいのは、十年間の間辛酸を舐めさせられた後遺症だ。もう一つはその反対側で、オレの作った会計報告にあらぬ疑いを掛けた奴にも対応は同じだ。オレの作る収支報告は1円の単位まできっちり合っているからな。
 会計士より厳しいので、たぶん、政治資金の管理会社を作れば、ばんばん客が取れる。
 警備関係は無理だな。警察よりも対応が厳しいもの。

 電車から下りると、オレの隣にたまたま男が肩を並べた。
 何気なくその男の顔を見る。
 「ありゃ。お前は」
 高校時代の同級生だった。ただし、卒業以来一度も会ったことがない男だ。
 「おお。お前か。どうしてんの」
 「いや、オレはここに住んでんだよ」
 「ホントか。オレもここなんだよ」
 そう言えば、オレは電車が嫌いなので、大概のところ車で通勤していた。
 「あれから二十年近く経つね。元気だったか」
 ってことは、オレは三十台なんだな。ふうん。
 「飯でも食って帰るか」
 「いいね」
 二人一緒に改札を出る。
 しかし、この駅の周辺にはほとんど飲食店が無かった。
 「ここは一杯飲むところが少ないよな」
 「ホントだよな」
 「確か一軒新しい店が出来た。餃子の店」
 「じゃあ、それで良いよ」
 3分ほどでその店に着く。
 看板には「餃子専門店」と書いてあった。

 「ビール下さい」
 店のオバサンに告げると、オバサンは無愛想な顔で頷いた。
 同級生が壁を見る。壁にはメニューがあれこれ貼ってあった。
 「餃子だけじゃないんだね」
 壁の紙には「Aランチ」とか「焼肉定食」などと書いてある。
 ここで同級生がオバサンに向かって声を掛けた。
 「餃子とチャーハン下さい」
 すると、オバサンはさっきよりも一層仏頂面で「出来ない!」と言った。
 「え」
 「ご飯ものはドライカレーしか出来ないよ」
 「でも、壁には色々書いてあるよ。全部出来ないの」
 「ここの決まりなんだよ。3時を過ぎてるしドライカレーしか出来ない。いやなら出てって」
 なんだ、その口調は。
 オバサンの顔を見ると、なるほど、世間に時々いるゴーツクババアの顔をしていた。
 五十歳台でヒステリー。典型的なコーネンキだな。
 (ここはあくまで夢の話ですよ。念のため。)
 ババアの剣幕がもの凄いので、同級生が引き下がる。
 「じゃあ、餃子だけで良いです」
 ババアは返事もしない。

 その様子を見ているうちに、さすがに腹が立って来る。
 「ここは気を付けないと不味いな」
 昨夜の泥棒のこともあり、すぐに頭の中が沸騰する。
 せっかく久しぶりに会ったのに、男二人の言葉数が少なくなった。
 「店員に対し横柄な態度を取る人間はダメだが、これは別だよな」
 オレは椅子から立ち上がって、ババアに聞こえるようにはっきりと伝えた。
 「おい。3時過ぎたって店に客は入れてるだろ。客の方は壁のメニューを見て注文できるもんだと思うのが当たり前だろ。3時から5時までドライカレーしか出せないのなら、それも紙に書いてh貼って置けばいいんじゃね?」
 これでババアが何か叫んだら、それは「ケツを捲ってもよい」って意味だ。
 ところが、反応があったのはババアの方ではなく客席の方からだった。
 「そうだよ」
 「その人の言う通りだよ」
 「おかしいぞ」
 周りの客が声を上げ始めたのだ。
 「だいたい、お前の態度は何だよ。このクソババア」
 ババアが激高して言い返す。
 「何だ。文句あるなら、お前らは出て行け」
 いかにも憎々しげな口ぶりだ。
 そのババアの方に、客の一人がビール瓶を投げつける。
 「お前のその言い方が気に入らねえと言ってるんだ」
 その客が自分のついていたテーブルをひっくり返した。
 それに呼応するように、周りのテーブルの皿やら瓶やらが「がらがらがっしゃあん」とふっ散らかる。
 「ありゃりゃ。まさかこんな展開になるとは」
 軽く「ブラフ」をかましたつもりだったが・・・。
 まあ、世の中には、紙に千円と書いて出されたものを、札だと思い込む人もいる。
 自分の頭でものを考えてはいないからだ。
 
周りがヒートアップすると、オレの方は逆に冷静になって来た。
 「警察で絞られてきたばかりなのに、また警察沙汰じゃあ不味いよな」
 そこで、オレは同級生の袖を引っ張った。
 「おいおい。とっととずらかるべ」
 ここから先は暴動に近い状態だものな。
 店から出ると、後ろの方ではあちらこちらが壊される音が響いていた。
 百辰曚錨垢ら離れてから、オレは同級生に声を掛けた。
 その同級生はタナカコーヘイという名だった。
 「いやあ、危機一髪だったな。でもま、騒動に巻き込まれずに済んで良かった」
 「ちょっとびっくりしたよな」
 「オレはどういうわけか、頻繁にこういう状況に遭うんだよ。持って生まれたもんかもしれんが」
 その言葉を聞いて、コーヘイが苦笑した。
 「それって、向こうから来てるんじゃなくて、お前の方が飛び込んでいるんじゃねーの。呼んでいるという方が適切かもしれんが。いずれにせよ、お前自身がトラブルメーカーなんだよ」

 なるほどねえ。オレは先のことを深読みするきらいがある。
 先手必勝のつもりだが、リスク回避のつもりで、逆にそっちの方に事態を向けているのかも知れん。

 ここで覚醒。
 最近の夢はこういう普通の内容が多いです。
 退院後は、体の調子が幾分悪いときしか悪夢を観なくなっています。
 やはり悪夢の大半は「体調によってもたらされる」という説が有力のようです。