◎夢の話 第475夜 ロッヂにて
眼を開くと、木造りの部屋の中にいる。
目の前にはテーブルが6つ。オレはその中の一角にあるカウンターの隅に座っていた。
「ここは山小屋かロッヂだな。あるいは高原のゲストハウスか」
自分自身を点検する。
オレはシェフみたいな白い服を着ていた。
「こうなると、オレの役回りはここの主人か、コックってこったな」
入り口のドアに付けられた鈴が音を立てる。
すぐに人が入って来た。
中に入って来たのは、2人の男だった。
2人とも黒っぽいスーツを着て、いかつい体をしてる。
(いかにもって感じのガードマンか刑事だよな。)
2人のうち、ケビン・コスナーみたいな顔をした男が口を開いた。
「席を予約したいのだが。2時からだ」
「大丈夫ですよ。何席ですか」
「この店を貸切にしてくれ。政府の首脳がここに来たいと言っている」
「どなたでも扱いは同じですよ。お客は皆、同じお客ですですから」
「もちろんだ。OKかね」
「特別な扱いでなく、いつも通りでということならOKですよ」
ここで男はホッとした表情を見せる。
「ああ良かった。突然言われたから、少し慌てたよ」
「ここに来たいとのご希望はその方がたの意向ですか」
「そう。外国の客が絶賛するのを聞いて、一度来てみたいと思っていたそうだ。この近くを通り掛かったら、それを思い出したそうだ」
へえ。全然記憶にないぞ。ま、眼を醒ます前のことは、まったく覚えていないのだが。
「料理はフィッシュアンドチップスとローターズ・ビーフ・ディッシュを頼みたい」
フィッシュアンドチップスは英国料理だな。料理と言えるかどうかはわからんが。
後のほうのは何だろ。今まで聞いたことないな。
「急だから、ローターズビーフは出来ませんよ。25人分は作れない」
それに作り方だって知らないし。
「料理は2人分で良いんだよ。あとは軽い飲み物だけで結構」
「じゃあ、他の方はお二人のお供ってことですか」
「そういうことだ」
「でも貸切だから、何か頼んで下さいよ」
「じゃあ、フィッシュアンドチップスを人数分頼む。ローターズ何とかは2人分でいい」
とても別のにしてくれと頼める雰囲気じゃないな。この男も突然言い付けられて戸惑っているようだし。
「ここ流のは他で食べるのとかなり違うかもしれませんが、それで良いですか」
「あんたに任せるさ。いきなり来ようと言う方が悪いから」
「じゃあ、オスロ風に作っておきます」
「オスロ風」はもちろんブラフだ。適当ってこと。
困った時にはオスロ風だ。なぜなら、大半の人がオスロで飯を食ったことなど無いからだ。
厨房に入り、支度を始める。
まずはフィッシュアンドチップスの材料だ。
ジャガイモは十分。冷蔵庫に入っていた魚はタラでなく、ナマズの切り身が沢山入っていた。
「何だ。これならタラより、よっぽど美味い」
タイの田舎でナマズ料理を沢山食べたが、いつも美味だった。
「それでナマズ料理を出してるんだな」
次はローターズどうたらだ。
冷蔵庫に牛肉はあったが、牛丼用だった。それと、レンジに作り掛けのデミグラスソースがある。
「仕方ない。洋風の牛丼みたいな感じで行こう」
ま、ご飯の上には載せられないから、シチューっぽくだ。
煮込んでいる時間はないから致し方ない。
入り口の方では、男2人が無線で連絡を取っていた。
話が終わると、オレの方に顔を向けた。
「もう近くまで来ている。こちらに来るのは板垣さんと岩倉さんという2人だ。それと、今連絡があったが、後でもう1人合流するらしい」
政府要人の板垣と岩倉。どこかで聞いたことがあるなあ。
もしかして、今って明治時代なの?
「それじゃあ、これから来る人って、もしや福澤って名前の人?」
かつては学問を勧め、後には人間の欲望の核心に座った人だ。
「いや違う。3人目は大隈って方だ」
おいおい。せっかく百円、5百円と来たんだから、次は福澤さんか聖徳さんだろ。
この頃には、オレは自分が今夢の中にいることを悟っていた。
しかも、話の流れは、「オレに金をくれてやろう」という暗示だよな。
「途中まではな」
うーん。
ここでオレはガードマンに向かって問い掛けた。
「ねえ。その3人の組み合わせって、どんな意味があるんだよ。何死因ここに来るんだよ」
いったい、この話は何を暗示したいわけ?
ここで覚醒。
悪夢を観なくなった代わりに、こんな調子の話が続いてます。
「病人は悪夢を観る」傾向で、長らく悪夢が続いていたと思いますが、時々、怖い話を見せてくれないと、本当に商売にならないぞ。