◎夢の話 第476夜 憧れの人
眼を開くと、周りは湯気が一杯だ。
湯気の向こうに、田圃みたいな区画が見える。
水が張ってあり、そこから湯気が立ち込めているのだ。
「湯田の前に立っているらしいな。ここは草津か。それとも」
2百メートル四方の広さの湯田の周りを、観光客が沢山歩いていた。
1千人近くは良そうな感じ。
湯田の真ん中に、丸い池があった。
「あそこは何だろ」
少し考えさせられる。
ちょうど露天風呂くらいの大きさで、周りには椅子も幾つか置いてある。
「まさかこんな人目のあるところで露天風呂はないよな」
ぼうっとしてその景色を眺めていると、女性が2人、湯田の中に入って行く。
湯田には、ここの従業員が作業出来るように通路が巡らされていたが、2人はそこを通って中心に向かった。
「あ。あれは」
2人のうちの1人には、見覚えがある。
「あれは、Kさんじゃないか」
Kさんはオレの「憧れのマドンナ」(古臭い表現だ)で、オレは数十年来、遠巻きに眺めて来たから見間違う筈が無い。
「何をするつもりなんだろ」
オレの周囲の人たちも足を止め、2人の姿を眺めている。
丸い湯の池に着くと、2人はスルスルと服を脱ぎだした。
すぐに素裸になり、その池の中に体を沈めた。
「やっぱり露天風呂だったか」
しかし、衆目が見詰める中、堂々と露天風呂に入るとは大した肝っ玉だ。
「ま、誰もが認める美しさだからな」
Kさんはもはや結構な年齢なのに、外見はまるで若い。
実年齢の半分くらいに見える。
「ここで露天風呂に入るってことは、人に見られても構わんってことだよな」
混浴なら、女性が入ってくれば目を伏せるけど、状況が違う。
オレは子どものような心持ちで、女神さまの姿を眺め続ける。
ここで覚醒。
◎夢の話 第477夜 妹
再び眠りに落ち、続きはこんな夢でした。
同級生の家に遊びに行った。
この同級生は女子で、活動的。「かしましい」という言葉を思い出すほどだ。
この子の家に入ると、中は昔風のつくりで、書斎には全面とも本が一杯だった。
すぐにお母さんがお茶を運んで来た。
「こんにちは。いつもうちの和子と仲良くしてくれて有難うね」
お母さんが紅茶のカップをテーブルに置く。
色白でほっそりとした手だ。
顔を上げてお母さんの顔を見ると、その手指に似つかわしいきれいな女性だった。
造作と言うより、しぐさのひとつ1つが美しい。
「ちょっと。何じろじろ見てんのよ」
和子ちゃんがオレをつつく。
オレは正直に本音を告げた。ここはやはり中学2年生だ。
「お母さんはきれいな人だね。少し驚いた」
和子ちゃんが少しむくれる。
「それって、私からは想像できないってこと?」
「いやいや、そんなことは言ってない。もちろん、和子ちゃんだって悪くないさ」
「何よその言い方。やっぱり私の方がお母さんより下じゃないの」
さらにむくれた。
「まあまあケンカしないで仲よくしてね」
お母さんがとりなしたが、もちろん、気分が悪い筈が無い。
この時、玄関の方から声がした。
「ただいま」
和子ちゃんが振り返った。
「あ。お兄ちゃんだ」
トントンと足音がして、書斎の入り口に男性が姿を現した。
「お客さんだったの。こんにちは」
その男性は、同級生とは少し年の離れたお兄さんだった。
オレはその人の顔に見覚えがある。
「この人はどこかで見たことがあるよな」
誰だろ。
すぐに分かった。
前に読んだ小説の裏表紙にこの人の写真があったのだ。
「吉行淳之介さんじゃん」
おいおい。じゃあ、この同級生の和子ちゃんは、吉行和子さん?
道理できれいな筈だ。
あと数年すれば、「女優さん」になるんだものな。
オレの世代では中年以降の姿しか知らないが、若い頃はやっぱりとてつもない美人だった。
オレはすぐに立ち上がって、お母さんに頭を下げた。
「お母さん。ご兄妹を生んで下さってどうも有り難うございます」
見ず知らずの人たちだが、本当にオレの人生の励みになったよな。
オレは心を込めて、もう一度頭を下げた。
ここで覚醒。