日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第424夜 にせもの

◎夢の話 第424夜 にせもの
11月5日の午前5時ごろに観ていた夢です。

 オレは田宮三郎。勤め人だ。
 出張で、ある地方都市に行った。
 ホテルが数軒だけの小さい街だ。
 眼が醒めると、オレは軽い服装に着替え、外に出た。
 オレはホテルで食べる朝食に飽きており、朝は外で食べることにしている。

 1分も歩かぬうちに、良さげな喫茶店を見つけた。
 入り口に人の背丈ほどの大きな磁器が置いてある。
 和風ではなく、トルコあたりの磁器だろう。
 店の中に入る。想像通り、中の調度はエスニックで、ゴテゴテと物が置かれていた。
 煩い程だが、そういうのも嫌いじゃない。

 店の中は混んでいる。
 「まあ、朝から開いている店はここしかないんだろうな」
 テーブルは満席で、仕方なくカウンターの端に座った。扇型に近いつくりで、オレはその要の位置に座っているから、店の中を見渡す事が出来る。

 客はおよそ30人だ。
 ところが、ウエイトレスが1人しかいないようで、なかなか注文を取りに来ない。
 朝からエスニック料理を頼む客がいるので、「お運び」に追われているのだ。
 オレのところに、水を持って来たのは、座ってから15分くらい経った後だ。
 20歳くらいのウエイトレスは、まだ新米らしく、動きがぎこちない。
 「すいません、遅くなって。今日は他の子が2人、急に休んじゃったんです」
 ほっぺがほんの少し赤い。この辺の子なんだな。
 「忙しいんだから、気にしてないよ。大丈夫。オレは急いでいないから、ゆっくりでいい。まだ入ったばかりなんでしょ。頑張ってね」
 仕事は昨日の夜までで終わり、今日は夕方までに帰れば良い。
 この街は初めてだから、周辺を見物して行こう。

 もちろん、オレみたいな客ばかりではない。
 ウエイトレスは大忙しで、あっちへ行ったりこっちに来たりと働いていた。
 「頑張りなよ」
 心の中で応援する。 
 いい加減、オレもオヤジになったのか、あのくらいの年ごろの女の子を見ると、皆、自分の娘を眺めるような心持になる。
 ここでオレは新聞を開き、地方欄を読むことにした。
 ここには、この地方の記事が載っているから、名物料理だとか、観光地なんかが分かり良い。
 ま、大体は訃報記事が多いのだけどな。

 それもすぐに終わったので、オレは店の客を観察することにした。
 顔の前に新聞を広げ、相手からは見えないようにして、1人ずつ眺めて行く。
 一番奥の男女は不倫カップルだ。
 たぶん、どこか離れたところに住んでいるが、出張にかこつけて、この街に来たんだな。
 学生時代のアルバイトで、オレは何千人もの面接調査をした。だから、人の動き方を見ただけで、どういう人で、何をやっているか、すぐに想像がつく。
 男女の関係なら、関心の多くは相手のことなので、外からはバレバレだ。
 もちろん、本人たちは自分たちが出しているサインは分からない。

 窓際のオヤジは、最近、家族の誰かが死んだんだな。奥さんか。気落ちしているが、闘病生活が長かったのだろう。ホッとしているところもありそうだ。

 順番に見て行くが、その間をウエイトレスが小走りで行ったり来たりしている。
 「あの様子では、そのうちお盆をひっくり返すだろうな」
 案の定、1分も経たぬうちに、「ガッシャーン」という音が響く。
 その子が躓いて、壁の陳列棚にぶつかったのだ。
 「あ。危ない」
 店の壁には置物が所狭しと置かれていたが、女の子がぶつかった拍子に、でかい金属の置物が倒れて来た。
 その置物は、壁際のテーブルにいた男の頭に「ごつん」と音を立てて、ぶち当たった。

 「おいおい。あれは30キロはあるぞ。大丈夫か」
 救急車ものだよな。
 そこにいたのは40歳くらいの男だが、頭を打った衝撃でテーブルに突っ伏した。
 「お客さん。大丈夫ですか」
 ウエイトレスが大慌てで確かめる。
 男は数秒間じっとしていたが、右手を上げた。
 「大丈夫。何ともない」
 けして何ともなくはないだろうな。

 その後、少しのやり取りがあり、その男はオレの間近のソファ席にやってきた。
 その客が休めるように、ウエイトレスが元々そのソファに座っていた客と交替してもらったのだ。
 男はオレからほんの1辰舛腓辰箸里箸海蹐忘造辰拭
 「あれ?」
 オレはその男の頭に目を止めた。
 薄くなりかかった頭の一部が光っている。
 禿げて光っているのではなく、金属の光沢だった。
 じろじろ覗き込む訳にはいかないから、やはり新聞でオレ自身を隠し、その陰から覗き見た。
「うわ。頭の皮がめくれてる」 
 男の頭の一部は、置物が当たった衝撃でべろんとめくれていた。
 そして、そのめくれた箇所の下には、金属が見えている。
「開頭手術をして骨の代わりに金属板が入っているのか。あるいは」
 男は自分の頭の皮がめくれていることに気が付いたらしい。
 カバンからホチキスを取り出すと、それを使って、頭の皮を繋ぐようにバチンと留めた。

 「コイツ。人間じゃ無いな」
 アンドロイドか。あるいは宇宙人だろ。
 人間の皮を被った「にせもの」だ。
 どうしよう。
 男の仕草があまりにも堂々としていたから、騒ぎ立てると良くない展開になりそう。
 暴れたり、攻撃して来たりするかも。
 オレはひとまず、周囲の状況を確認することにした。
 男は大っぴらに、頭の皮を繋いだので、誰かが見ている筈だ。
 新聞を前から外して、店の中を眺める。
 すると、店の中の客たちは、偽物の男ではなく、オレの方に顔を向けていた。
 一様に視線をオレに向けているので、オレはぞっとした。
 「こいつら。この男の仲間か」
 幸か不幸か、オレは感情が顔に出ないタイプだ。
 平静を装って、再び新聞に視線を戻した。
 「ここは何も気づかなかったふりをしといた方が無難だな」
 そう思ったのだ。

 いったい、ここに居る人のどれくらいが偽者なんだろ。
 人間に化けて、人間と同じ振る舞いをしているのだから、考えているのは良からぬ事に決まっている。
 「侵略」とか「征服」だとかいう言葉が頭に浮かぶ。
 こりゃ、早いとこ、しかるべき筋に報告しないとな。
 とりあえず、ここから脱出することだ。

 まずは相手に気付かれないようにするのが肝心だ。
 オレはウエイトレスが運んで来た朝食をゆっくり食べながら、さらに周りを観察した。
 まさか、ここの客の全部が偽者ってことはないだろうな。
 オレから2つ先のテーブルには中年の女性が座っている。
 ああいう「いかにも母親」って感じの女性なら、まさか偽者ってことはないだろ。
 ところが、オレの見ている前で、その女は自分の顎を外し、入れ直した。
 それも、ごく当たり前のようにだ。

 「うひゃあ。こりゃいかん。もしかして、この街はとっくの昔に偽者に支配されているのかも知れん」
 すぐにも店から飛び出したい衝動を覚える。
 早いとこ、逃げ出さないと。

 オレは朝食を食べ終わったので、さりげなく伝票を持ち、レジに向かった。
 厨房の前にはウエイトレスが立っている。
 「ごちそうさま」と、その子に伝票を見せる。
 この子にも「早く逃げろ」と教えてあげないと。
 その子がやって来て、レジの前に立った。
 オレは声を潜めるように、小声でその子に伝えた。
 「ねえ。この中の客は人間じゃ無い。オレと一緒にここから逃げ出そう」

 すると、そのウエイトレスはオレのことを指差し、金属を擦り合わせるような金切声を上げた。
 「ケエエエン」
 その声は、二百短擁?砲眛呂そうな、まるでサイレンみたいな音だった。

 ここで覚醒。

 自分以外は、全部が「にせもの」でした。
 映画の『ボディ・スナッチャー』と、P.K.ディックの『にせもの』の影響下にある内容でした。
毎夜毎夜、悪夢に悩まされていますので、こういう夢は歓迎です。