日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第291夜 戦争

夕食の支度をした直後、テレビの前で寝入っていました。
これはその時に観た夢です。

医者に「よくよく気を付けないと、かなり危険な状態ですよ」と言われた。
オレは入院して病院で暮らすか、騙し騙し自宅で療養するかを思案した結果、後者に決めた。
いつ何時終わりが来てもおかしくないのだが、病院の白い壁を眺めてそれを迎えるのは、いかにも味気ないからだ。
今は毎週の妻の休みに、一緒に外出し、思い出づくりをする暮らしを送っている。
いずれ程なく、動けなくなるはずなので、それも短い間の話だ。

そんなある日のこと。
古い街並みを見物に行き、街角でパチパチと写真を撮った。
モデルは専ら妻だ。
オレの方が被写体になると、もはや死期が迫っているので、オレの他に色んなものが写るのだ。

街角に佇みポーズを取る妻。
妻はいちいちポーズを決めようとするが、これは最近とみにデブ化してきたので、幾らかでも細く写ろうとしているせいだ。
とにかくどこでも体を斜めにして半身に構える。
「おいおい。どっち向いても樽は樽のままだぞ」
いつまでもポーズが決まらないと、さすがに皮肉を言ってしまう。

こんなことを言いながら、その街の広場で写真を撮った。
デジカメなので、画像はすぐに見られる。
開いて見ると、妻の後ろの方に、白い霧が写っていた。
「なんじゃこれ?」
実際の場所に視線を向けると、そこには何もない。
「もう一度撮ってみっか」
妻を被写体から外して、再び撮影する。
今度ははっきり白い霧が写った。

「実際には存在しないのに、写真には写ってら」
オーブ現象に近いが、今回のはいかにも巨大だ。
十メートル四方の大きさの白い霧の玉なのだ。
「おかしいよな」
妻にその場をどいて貰い、オレがそこに立ってみた。
やはり何も変化がない。
「おーい。ちょっとオレの写真を撮ってくれ」
妻に言い付ける。

「ひゃあ!」
妻が叫んだ。
「どうなってる?」
これに妻が答える。
「お父さんの周りが真っ白になってる」
やはりそうか。
「いったいこれは何だろう」
オレは両手を上に上げ、空気の感触を確かめた。
まったく何の変化もない。
「自然現象ではないようだな。それなら写真だけ写るってことはない」
手を下ろし、オレは深く深呼吸をした。

オレは血圧が高めなので、深呼吸をするとその都度眩暈が起きる。
この時も、目の前がクラクラして倒れそうになった。
「イケネ」
眉間を押さえ、しばらくの間目を瞑る。
数秒後、オレはもう一度目を開いた。

すると、この時オレは白い霧の真ん中に立っていた。
白い霧の玉のちょうど中心にいたのだ。
「こりゃどういうことだ」
オレは右手を伸ばし、オレの周りを取り囲む霧に触れようとした。
すると、その瞬間、その霧の壁が姿を変えて、人の顔になった。
「うわ。何だこりゃ」

またこの夢か。
いつもながら、オレは自分が夢の中にいるという自覚があった。

この霧は、この世とあの世を隔てるための霧で、霧の中はあの世の側だ。
霧自体は無数の霊体が集まって出来ている。
オレのように敏感な者が近寄ると、何千何万という霊を感じ取ってしまう。
「前にこれを観たので、『無情の雨』を書けたんだったよな」
赤虎一行が怖谷に向かう途中で霧に巻かれるが、これがこの霊霧で、何万と言う霊が手を伸ばして来るという場面だった。

「夢ではたまに見るが、直接触るのは初めてだな」
オレが手を伸ばすと、その手の先に、老若男女の顔が現れる。
皆、オレの存在を知ると、口々に「助けてくれ」と叫ぶのだ。
だが、もちろん、助けることは出来ない。
オレは生きており、奴らはもはやこの世にはいない者たちだからだ。

「しかし、今オレはあの世の側の方に立ってるんだよな」
ここで、オレは自分がいつもと違う立場にあることを悟った。
「こういう状況になったら、何が起こるんだろ」
すると、突然、霧がざわざわと動いた。
何かの気配が霧の壁の向こうから近づいてくる。
しゅうっと霧が割れ、1人の男が現れた。

「来たな。よし、これからがお前の出番だぞ」
男は小袖一枚の着物姿だった。これは『七人の侍』の中の「菊千代」の出で立ちだ。

「え?」
男が笑顔になる。
「あれから四百年。またこの世とあの世の境目が崩れようとしている。穴がいくつも出来ているのだ。こちら側からは俺たちで修復することが出来るが、お前たちの側の穴はお前のように生きている者がやらねばならない。穴の所在を知り、位置を正確に伝えられる者が、ということだ」
なんとなく、オレはこの世に起きつつある異常を感じていた。
何か、どこに行っても騒がしさを感じるのだ。
なるほど。その騒がしさは、この世の喧騒ではなく、あの世が発しているものだったか。

オレは男に尋ねた。
「分かりました。私は何をすれば良いのですか」
「こういう霊体が漏れ出ている穴を探し、然るべき作法でその穴を閉じるのだ。お前は閉じ方を既に心得ているから、その場に行けば分かるだろう」
ああ、そうだった。
ここで、生まれかわる前の記憶が戻って来た。
オレは昔から、この世の側の防人(さきもり)だったのだ。
ここで、オレは今生では忘れていた自分の存在意義や使命を、今になって総て思い出した。

男がオレの様子を見て、話を締めくくる。
「急げよ。お前の持つ時間はあとわずかだぞ」
その言葉が終わると、オレはまたくらくらと眩暈を覚えた。

目を開くと、妻が心配そうな表情で俺を見ていた。
「大丈夫?」
「ああ」
「歩ける?」
「うん。これから色々と行くところが出来たから、その支度をしなくては。まずは家に帰ろうか」
「え?来たばかりだよ」
妻が不審そうな目でオレを見詰める。

「オレにはあとひと月も時間がない。その間にやるべきことをやらねば」
「ひと月?」
そうだ。それを過ぎると、オレはあちら側の防人の1人になるのだ。
オレの命はあとわずか。
でも、ここに生まれて来た意味が分かって、本当に良かった。
「よし。もう行こうか。これからは戦争になる」
妻にそう告げて、オレは歩き出した。

ここで覚醒。

この先が大事なのに、予告編で終わりでした。
続きを早く観たいものです。

ちなみに、いつもおどろおどろしい夢ばかり見ているようですが、ごく普通の日常生活に関連した夢も、もちろん観ます。
個人的な夢では面白くないので、極端な内容のものばかり書いているのです。