夕食の支度をした後、座って数分で寝入っていました。
その時に観た夢です。
目が醒めると、俺の前に白衣を着た男がいた。
どうやら医者だな。
「ああ。俺は今、夢の中にいる。なぜなら、ここから始まる夢はしょっちゅう観るからな」
そう頭の中で考えた。
医者はにこやかに笑っていた。
「私がわかりますか?ホンゴウさん」
「ホンゴウさん?」
医者が頷く。
「ああ。大丈夫なようですね。あなたはホンゴウさんではなく、別の人です」
なんだそりゃ。一体どういうことだよ。
「まず最初にお尋ねします。あなたは死ぬのと、厳しい条件ながら生き続けるのと、どっちを選びますか」
「は?」
酷い質問だ。死ぬか生きるかという質問なら、答えは決まっているだろ。
「そりゃ、生きる方を選びますよ。誰だってそうでしょ?」
医者はもう一度深く頷いた。
「そうですよね。ではまずこれにサインしてください」
医者が差し出した紙を見ると、そこには「私が生きるために必要な治療を総て受け入れます」と書いてあった。
「これに必ず署名しなけりゃならないのですか?」
「そうです。そうしないと先には進めません」
じゃあ、仕方ないよな。
だって、俺は自分が誰かすら思い出せない状況だもの。
それに、死ぬか生きるかなら、何度考えても答えは1つしかない。
俺は医者が差し出したペンを取り、紙にサインをした。
「ではご説明します」
医者が俺に向き直る。
「ひと月前、あなたは警察官でした。あなたはテロの警戒のため、この地域に来たのです。その時は3人でひと組のチームを組んでいました」
俺にはまったくその記憶が無かった。
「テロリストの標的はこの施設でした。彼らはここを爆破しようとしたのです。たまたま犯人たちが爆薬をセットしようとした時に、あなた方がそれを発見しました。そこで銃撃戦になり、あなた方は犯人たちを倒しました」
医者の話は、まるでサスペンス映画みたいな内容だった。
「ところが、爆発物の傍に近寄った時に、それが突然、爆発したのです。たまたま銃弾が当たったせいだでしょう。あなた方3人はその爆弾の周りにいたので、全員が吹き飛びました」
え?そんな筈は無いよな。俺はここにいるもの。
「でも先生。俺はこうやって生きています」
俺の問いに、医者は首を振った。
「バラバラに吹き飛んだのです。手も足も頭も取れていました」
「・・・」
「そこで私たちは、ひとつの決断をしました。3人の方はもはや各々では生きられません。何せバラバラになってますからね。でも、それぞれにまだ使える部分が残っていました」
うう。これはきっと嫌な流れだな。
「ここは先端医療の研究施設です。この国の最高峰です。そこで、我々は持てる技術を結集して、あなた方の使える部分を接合して、あなたを生存可能にしたのです」
「それは、もしかして、この俺の体に他のヤツの体の部分をくっつけたという意味ですか?」
しかし、またもや医者は首を振った。
「違います。3人が1人になったのです。右脳はあなたですが、左脳は別の人です。心臓を始め大半の臓器はもう1人の人の物でした」
おいおい。それじゃあ、俺は・・・。
「今、フランケンシュタインの怪物を思い浮かべたでしょうが、それは違います。正確にはあなたは死んではいない。もし例えるなら、ロボコップですね。警察官なんだし。でもま、繋がれたのが機械でなくて幸いです。少なくとも、この後も人間の扱いをしてもらえます」
この時、頭上の方から声が響きました。
「待て待て!ここでヤメロ!もったいないぞ」
こう叫んでいたのは、夢を観ていた私自身の意識です。
「こんな面白い話は滅多にないぞ。ここでヤメロ。これは絶対に小説に書かねば」
ここで無理やりに覚醒。
しかし、観るはずだった夢の続きは、頭の中に残っていました。
忘れぬように、すぐにメモを取り、起き上がってPCのところに走りました。
「こりゃ、書ける!」
ちなみに、3人を1人にしたので、医師たちは「俺」のことを、「ホンゴウ・タケシ」と仮称していました。医者の作った人造人間に仮面ライダーの名前を与えるとは、ブラックジョークが効いてます。
しかし、夢の内容はSFでもサスペンスでもなく、「3人分の思いをそれぞれの家族に伝えに行く」というシリアスな内容でした。