日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第321夜 お姉ちゃんが死霊になった

夕食後の支度をした後に、座った途端に寝入っていました。
これはその時の夢です。

ボクは11歳。
お姉ちゃんが2人いる。
お姉ちゃんは上が21歳で、下が17歳だ。

上のお姉ちゃんは大学に通っている。
ある日の夜更けに、上のお姉ちゃんが青い顔をして帰って来た。
「どうしたの?」
お母さんが訊くと、お姉ちゃんは「駅でトラブルに巻き込まれた」と答えた。
改札を出た所に、変なオヤジが立っていたが、脇を通り抜けようとしたら、そのオヤジがいきなりお姉ちゃんの右手に噛み付いたらしい。
そのオヤジはすぐに捕まったが、お姉ちゃんは右手の小指の辺りから出血したので、近くの病院で手当てをしてもらってきた。
だからこんなに遅くなったのだ。
「夕ご飯はどうするの?」
お母さんが尋ねると、お姉ちゃんは「いらない」と言い残して、自分の部屋に行ってしまった。

次の朝。朝ごはんの時間になってもお姉ちゃんが起きて来ない。
「圭一。お姉ちゃんを起こして来て」
お母さんに言われるまま、ボクは上のお姉ちゃんを起こしに行った。
すると、お姉ちゃんはベッドの中で紫色になっていた。
ボクは急いで下に降り、お母さんに叫んだ。
「お姉ちゃんが死んでる!」

救急車を呼んだけれど、お姉ちゃんは助からなかった。
噛まれた傷がもとで死んだのだろうけど、感染症じゃあ早すぎる。
病院で調べて貰うことにして、ボクたち家族は家に戻った。

食卓に皆で座ると、自然に涙が出て来た。
1人が泣きだすと、他の皆も泣き始めた。
「どうして死んじゃったんだろ」
お母さんは、田舎のお祖父ちゃんお祖母ちゃんに電話をしたりしたが、戻って来て椅子に座ると、やっぱり泣いてしまう。
家族皆の心が静まらず、そのまま夜まで泣き暮らした。

そろそろ真夜中になった頃、家の玄関が「ドン、ドン」と音を立てた。
「何だろ?」
袋に砂を入れて、それでドアを叩いたような音だ。
「ドン、ドン」「ドン」と途切れながらも、音は何度も聞こえた。
お父さんが玄関に出て見ると、そこに上のお姉ちゃんが立っていた。

「お前。生きていたのか」
その声を聞いて、ボクやお母さん、下のお姉ちゃんは玄関に走った。
そこに立っていたのは、紛れもなく、上のお姉ちゃんだった。
お姉ちゃんは青ざめていたけれど、ちゃんと自分の足で立っていた。
「良かったね」
「本当に良かった」
皆でお姉ちゃんを囲んで居間に戻った。

「お前。どうしたんだよ」
お父さんが訊くと、お姉ちゃんは無表情に話し始めた。
「目が醒めたら、霊安室に寝ていた。あと少しで解剖されてたかも。起き上がって、看護師の白衣を着て、帰って来た」
そう言われてみれば、お姉ちゃんは上下とも看護師の着る白い服を着ていた。
「じゃあ、本当は死んではいなかったんだね。あんなに顔色が悪いし、心臓が動いていないみたいだったから、皆、お前が死んだと思った」
「良かったわね。生きていて」
お父さんとお母さんは、心の底から喜んでいた。ボクはそんな親たちの表情を見るのは久しぶりだったから、すごく嬉しくなった。

「お腹が空いた」
上のお姉ちゃんが呟いた。
「シチューならあるよ。昨日のだけどね」
昨日はお姉ちゃんの具合が悪くなったので、夕食を食べる暇がなかったのだ。
お母さんがシチューを皿に盛って来た。
お姉ちゃんは、そのシチューをじっと眺めていたが、ひと口すくって口に入れた。
「オエッ」
お姉ちゃんは大きな音を立ててシチューを吐き出した。

「あらあら。大変」
お母さんがペーパータオルを取りに台所に走った。
「調子が悪いんだから、急には食べられないわね。何か食べられそうな物はあるの?」
下のお姉ちゃんが訊くと、上のお姉ちゃんは、ぽつんと「ジュース」と言った。
「ミカ。真紗実に何か飲み物を持って来てやってくれ」
お父さんが下のお姉ちゃんに言い付けた。
下のお姉ちゃんは、お母さんと入れ替わりに台所に行き、コップ1杯のジュースを持って来た。
ブラッドオレンジのジュースだった。

上のお姉ちゃんは、テーブルの上に置かれたコップを見ていたが、視線を隣のミカ姉ちゃんに向けた。
上のお姉ちゃんは数秒の間、ミカ姉ちゃんを見ていたが、突然、ミカ姉ちゃんに飛びついた。
あろうことか、上のお姉ちゃんはミカ姉ちゃんの首にかじりついたのだ。
「わああ」
「おい。どうしたんだ」
「ぎゃあ」
上のお姉ちゃんがミカ姉ちゃんの首を食い破ると、その傷からピューッと音を立てて血が噴き出してきた。
「真紗実。何をする。やめなさい!」
お父さんが上のお姉ちゃんの肩を引くと、振り返ったお姉ちゃんはお父さんの腕に噛み付いた。
「うわああ」
お父さんの腕に真っ赤な穴が開いた。

こういう場面は、前にビデオで観たことがある。
上のお姉ちゃんは、駅前でオヤジに噛まれたと言っていた。
きっと、そのオヤジはゾンビで、そのゾンビに噛まれたお姉ちゃんもゾンビになってしまったのだ。
「お母さん!お姉ちゃんはゾンビになったんだよ!」
ボクはお母さんに叫んだが、お母さんはびっくりしたのか、じっと固まったままだ。

この時、上のお姉ちゃんはお父さんの首に噛み付いていた。
お父さんが終わると、次はお母さんかボクの番になる。
「お母さん。早く包丁を取って来て!」
ボクの言葉に、再びお母さんが台所に走った。
戻って来ると、お母さんはお姉ちゃんに近寄り、包丁を振りかざした。
「ダメだわ。できない」
お母さんがひるむと、元はお姉ちゃんだったゾンビが顔を上げた。
「うがあ」
怖ろしい表情だ。これは確かにお姉ちゃんじゃない。

がちゃん。
あまりの恐ろしさに、お母さんが包丁を取り落した。
それと同時に、お姉ちゃんが体を起こして、立ち上がろうとした。
ボクは大慌てで包丁を拾い、お姉ちゃんの頭に突き刺した。
「ぐさっ」と大きな音がして、包丁はお姉ちゃんの眼を貫いた。
この深さなら、包丁の先は脳まで達したことだろう。
ゾンビならこれでアウトだ。

お姉ちゃんが後ろにどたんと倒れた。
横を向くと、お母さんがぶるぶると震えているのが見えた。
ボクはお母さんの傍に行き、お母さんを抱きしめた。
「大丈夫だから。これで大丈夫だから」
ところが、大丈夫じゃなかった。

お姉ちゃんは、確かに頭に包丁が突き刺さっているのに、まだもぞもぞと動いていた。
「ありゃ。まだ死んでない」
おかしいな。ゾンビなのに。
この時、窓の外で唸り声がした。
窓に駆け寄って外を見ると、家の外には犬が3匹いて、家の中を窺っていた。
3頭はいずれも体の大きな狼犬だ。

「うわ。お姉ちゃんはゾンビじゃなく人狼だったのかあ。あるいは吸血鬼の手下の死霊なのかも」
なるほど。それじゃあ、脳を傷つけても死なないわけだ。
じゃあ、ひとまずお姉ちゃんを倒さねば。
人狼と死霊。殺し方はどうするんだっけな」
すぐに思い出した。ボクはホラー映画が大好きだからね。

「良かった。両方とも頭を切り落とせば良いんだっけ。じゃあ、今度は間違えようがないや」
なら、もう1回、大包丁が必要になる。
ボクは大急ぎで台所に走った。

ここで覚醒。