日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第334夜 夢に囚われて (その2)

続きです。

すぐに跳ね起きて、相手に向かう。
「コイツ。確かバスケットボールの選手だったよな。35年前ならともかく、今は爺さんだろ」
そう考えた途端に、黒人の顔にしゅしゅっと皺が出来た。
「やっぱりこれは夢か。この夢を観ているのはオレで、話や流れを支配出来るのはオレなんだ」
よし。コイツをぶっ殺そう。

「やああああ」
相手の膝小僧の横を足で蹴ろうとする。
あるレスラーが、アンドレという巨人を倒すために繰り出した禁じ手だ。
厳密に言えば反則ではないが、怪我をする可能性が高いので、レスラー同士ではそういう技は使わない。
プロレスは迫力のある技を見せて、報酬を貰う商売なので、立てないくらいの怪我をしたら、翌日の興業に穴が開く。
そういう類の技を繰り出さないのは、「八百長」のせいではなく「仁義」なのだ。

空中でそんなことを考えつつ、足を振ったら、ジャバールの足には届かなかった。
「ありゃ」
オレの意識は現実と繋がっていたため、現実のオレの状態にリンクしていたのだ。
「ジャバールが爺さんなら、オレだってオヤジジイだよな」

オレは情けなく床に落ちた。
すると、長身のバスケ野郎が「へへ」と笑った。
「こりゃまずい」
背中を向けて、2、3歩距離を置き、体勢を立て直そうとすると、後ろから思い切り蹴られた。
その勢いで、オレは前に5、6歩つんのめった。
「う。ついてねえ」
目の前は暗い闇だ。
オレはこの塔の窓から、外に飛び出てしまった。
「わあああああ」
暗黒の闇の中に、オレはゆっくりと落ちて行った。

「わ、っと」
地面に激突するのかと思ったら、体勢を立て直して、ひゅんと着地した。
回りがパッと明るくなる。

「ここはどこだろ?」
自分の回りを見回すと、オレは自転車に乗っていた。
オレの眼の前にも、自転車に乗った女がいる。
チリン、チリン。
ベルを鳴らして、歩行者に警告を発して、どんどん先に進む。
回りは、どこか古い街らしい。

前を行く女を見ると、上は白いプラウスを着て、下には膝丈のスカートを身に付けている。
今どき珍しい清楚ないでたちだった。
しゃかしゃかとペダルをこぎ、オレのことを引き離す勢いだ。
「おおい」
オレが声を掛けると、女が振り返る。
さわやかな笑顔だった。

「あら。オードリーだ」
もちろん、漫才師ではなく、ヘップバーンの方だ。
このシーンはもしかして・・・。
ローマの休日だな」
やったやった。「死亡遊戯」よりこっちの方がずっと良い。
しかも、この映画のグレゴリー・ペックの役なら、オヤジだし、現実のオレに近い。
(ま、あの映画の設定では、ペック演じるジョー・ブラドレーなる記者は40より手前だが、固いことは言わずに置こう。)

もう、どのシーンでも良いぞ。
同じ屋根の下に寝泊まりしてドキドキでも、なんなら別れのシーンでもOKだ。
「好きだ」という思いを胸に仕舞ったまま、お別れの言葉を告げるのだ。
オレはオードリーに導かれるまま、建物の通路に入った。
少し歩くと、ある部屋の壁面に、大きな顔が口を開けていた。
「おお。サイコーだ。真実の口の場面だ」
オレはこのデカい顔の口に手を入れて、「わあ。取れなくなった」と叫ぶのだ。

(さらに続く)