日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第531夜 遺産

◎夢の話 第531夜 遺産
 12月5日の午前1時47分に観た夢です。

 オレはアラ40。誰かは分からない。
 ある日突然、「代理人」から連絡が来た。
 「故人の意思により、貴方様に遺産を相続して欲しいのです」
 その故人の名前を聞いたが、まったく覚えが無い。
 「気持ち悪いから、要りません」
 「え。本が何万冊もありますよ。それを収めた家と土地も」
 書籍が何万冊だと。
 普通じゃないぞ。一体どういうことだろ?
 遺産云々より、そっちの方が気になり、とりあえず見に行くことにした。

 妻と2人で車に乗り、5時間掛けて高原の町に着いた。
 その建物の前まで行くと、代理人が門の前に立っていた。
 「ここがその家です」
 門の中に眼をやると、頭のとんがった建物が建っていた。
 「まるで、大学の図書館か、中世の教会だよな」
 それにしても、かなり大きいほうだ。
 「この町に、こんな施設があるなんて、僕は全然知りませんでした」
 「そりゃそうですよ。これは個人の所有物ですもの。中に入れるのは持ち主だけです」

 建物の中に入る。
 やはり天井が高い。
 「中は国会図書館に似てるよな」
 図書室の扉を開けると、代理人が言った通り、本棚が並んでいた。
 「こりゃすごい。2万冊かそこらだろうと思っていたが、これじゃあ十万冊の桁だろ」
 本棚の本を1冊手にとってみたが、埃がまったく乗っていなかった。
 他の本棚も同じだ。
 「すいません。ここは誰が掃除しているのですか。図書館には付き物の埃がここにはまったくない」
 「ここは見た目よりしっかり出来ていて、外の埃が一切中には入らないのです。だから埃もありません」
 「その施設を、故人はどうして僕にくれようというのですか?」
 「さあ、私には判りかねます」
 「これを相続したら、別の負債が付いて来て、莫大な借金を抱え込まされる。そんなからくりがあるんじゃないですか」
 「まさか。負債があればきちんとご報告しますよ。相続財産はこの建物と書籍だけです」
 それにしても、話が美味すぎる。
 「ちょっと考えさせて貰えますか?」
 「結構ですよ。ここには宿泊施設も付いてます。そこに数日お泊りになり、じっくりお考え下さい」

 この建物には別棟があり、廊下で繋がっている。
 そっちが居住区だ。
 「こっちも大きいわね。十幾つも部屋がありそう」
 やはり埃ひとつ乗っていない、きれいな建物だった。
 「こっちは人が出入りするところだから、必ず埃が入る。掃除をする人がいるのだな」
 「こちらには家政婦が4人付いています」
 「ほらやっぱり。そうなると、その4人に給料を払うことになるよね」
 しかし、代理人は首を振った。
 「いえ。こちらの家政婦は財団の職員です。俸給は財団の方で払います」
 税法上、面倒くさそうな話だが、今は考えるのもウザ過ぎる。
 「せっかく来たんだし、泊めて貰いましょうよ」
 「まあ、今から町に行ってホテルを探すのもなんだから、今日は泊めて貰おうか」
 オレたち夫婦は、その建物に泊まることにした。

 食事が終わり、家政婦たちが姿を消すと、建物の中に二人だけになった。
 もともと、周囲には何も無い山の中だから、一切物音がしなくなった。
 「さすがに、こんな大きな建物だと、少し気味が悪いわよね」
 妻が呟く。
 この時、唐突に玄関をノックする音が響いた。
 予想していない事態なので、オレたち夫婦はドキッとして顔を見合わせた。
 今は夜中の11時だ。
 「この時間にいったい何だろうな」
 起き上がって、ガウンを着た。
 「止めたほうがいいよ。放って置けば?ここは人が来るところじゃないよ」
 「でも、観光に来て、車がエンストした人たちなら、可哀想だろ」
 「それもそうだね」
 妻もベッドから起きて支度をした。

 二人で階下に下がり、玄関の扉を開いた。
 すると、3人の人がドヤドヤと中に入って来た。
 「ああ疲れた。こんなに遠いなんてねえ」
 母だった。
 後ろには父と叔父がいる。
 オレは少なからず驚いた。
 はっきりとは思い出せぬが、3人とも「故人だったような気がする」からだ。
 叔父は十五年前、父は2年前、母は昨年、死んだのではなかったか。
 だが、頭がぼうっとして思い出せない。
 隣の妻を見ると、妻は予想外のこの事態に、むしろ喜んでいた。
 「ああ良かった。ここは広くて寂しいから、夜をどう過ごそうかと思っていたんですよ」
 あ、大丈夫なのか。オレの記憶は間違いなんだな。
 ま、オレの場合、夢と現実が並行して起きるから、どれがどれだか分からなくなることがある。
 「人生は妄想の連続だ」と言っていた偉人も居たことだしな。
 確か、C.チャップリンか、アインシュタインの言葉だ。

 「ここの管理人になるんだってな。噂はすぐに俺たちのところにも届いた」
 父は最近の姿で80台の後半だ。
 母の方に目を向けると、母は40歳くらいだった。たぶん、母の人生で一番きれいだった頃だ。
 叔父は死んだ頃、すなわち70歳くらいだな。
 皆、それくらいが居心地がいいから、その姿をしているのだ。

 ここでボンヤリとオレの今の姿が見えて来た。
 「オレはここの管理人になるのか」
 ここは人間の知識を収蔵して置く場所だった。
 かつての知識を保存・整理して、今生きている人間に送り届けるのがここの役割だ。
 そうしないと、人間はすぐに絶滅してしまう。
 それをなるべく防止して、絶滅を先送りさせるのがオレの務めだ。

 この瞬間、オレはあることに気が付いた。
 「そうなると、オレもオレの妻も、もう死んでるんだよな」
 ここで覚醒。