日刊早坂ノボル新聞

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北奥三国物語 鬼灯の城 (六)陰謀の章   (要約)

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◆盛岡タイムス 連載中

北奥三国物語 鬼灯(ほおずき)の城(六)陰謀の章  (要約)

 天正十九年一月三日。
 小笠原重清は、九戸政実の催す年賀式に出席すべく、総勢五名で釜沢館を出発した。
 昨日からの降雪で、重清一行は馬橇を使用したが、それでも平常の三倍の時を要した。
 漸く四戸領との境に達すると、そこには四戸の刺客十二名が待ち伏せていた。
 年賀式の日に暗殺を企てるのは、如何にも都合が悪いので、刺客らは自らを「毘沙門党」と称した。すなわち強盗の仕業に見せかけるつもりである。
 従者二人が斃され、重清に危機が訪れる。
 すると、町屋の陰から男装束の女が現れた。
 その顔を見れば、重清が昨月三戸で会った紅蜘蛛という女盗賊であった。
 紅蜘蛛は偶々、すぐ近くの旅籠に泊まっていたが、侍に自分たちの名が勝手に使われたことを知り、外に出て来たのだ。
 すぐさま毘沙門党と四戸の刺客との間で戦闘が始まった。
 重清は「敵の敵は味方」と見なし、すぐさまその場を離れた。

 この事件の知らせは、たちまち目時筑前に届いた。
 筑前はこれこそ好機だと考え、釜沢との間で和議を行うことにした。
 重清は九戸党と軋轢を生じさせており、孤立している。そこで、「三戸との仲を取り持つ」と持ち掛ければ、必ず申し出に応じる。
 その和議の席で重清を殺し、釜沢を手中に収めよう。筑前はそんな風に考えたのだ。

 和議の申し出が届き、重清はそのことを桔梗に話す。
 桔梗は重清が自分を目時に返すつもりなのかと散々に詰る。
 重清の方は筑前の悪巧みを悟り、それを逆手に取って、筑前を殺すつもりなのだが、その謀を言う訳には行かない。
 桔梗は、重清が「案じるな」と言うばかりなので、不安感を募らせる。
 ついには、桔梗は自らの手で筑前を暗殺することに決め、杜鵑女の許を訪れる。
 鼠を駆除するための毒の調合を依頼すると、杜鵑女は当日中に作ることを約束した。

 杜鵑女は、桔梗がその毒を夫殺しに使うであろうことを察知する。
 杜鵑女の霊視によれば、桔梗は重清の行く末を壊し、いずれ釜沢を滅ぼす悪女である。必ずこの女を除かねば、杜鵑女自身の身も危うくなってしまう。
 そこで、桔梗の謀に乗じ、毒を用いて桔梗を殺すことを決意する。

 和議の儀は二日後となる。
 四人は各々の思惑に従って、陰謀を企てている。

 ◆この章の背景
 三戸留ヶ崎城には、目時筑前邸跡があります。ひとまず文禄年間くらいまで、目時が家士を務めていたのは事実です。
 ところが、幕末になり作成された家系譜を見ると、筑前が誰なのかがはっきりしません。
 津島肥前が目時を領するようになり、その次の世代くらいだと想定されますが、九戸包囲戦にも目時筑前に該当するような名はありません。
 これは、目時が内侍で、専ら城の中の問題処理を行っていたこととも関係していますが、その後、目時一族の名が盛岡藩士として現れるのは南部重信の時で、かつ新たに召し抱えられた扱いとなっています。
 すなわち、九戸戦の前後に「何かがあった」のは疑いないです。

 釜沢淡州(小笠原重清)を語る史実は、「九戸戦の後、十日も経たないうちに、南部方に攻められ落城した」という一文だけで、他は後世の作り話であろう断片的な伝説だけが残っています。
 従わぬ者は「史実」から徹底的に排斥されるわけで、これは九戸政実と同じ扱われ方です。
 しかし、人々の心を打つのは、権力者に従って生き永らえた者では無く、反抗して死んだ者です。

 『鬼灯の城』は、本来、次の『鳥谷ヶ崎情夜』を書くための準備作で、次作の主人公の一人である杜鵑女のプロフィールを確立するためのものでした。
 ところが、次第に独り歩きを始め、ベースとなった『マクベス』の本筋からも離れました。
 登場人物に躍動感が出て来ましたので、このところ如実に「良くなってきた」感があります。