日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎調査統計の実情 (裁量労働制のデータエラーについて)

◎調査統計の実情 (裁量労働制のデータエラーについて)
 調査票調査は大量観察の一手法で、一定規模以上のサンプルを適切に抽出して観察する限りにおいては、全体(母集団)への予測を可能にします。
 (ここは説明が細に渡るので割愛します。)
 調査票調査の場合、データの収集に際して、次のような原則があります。
「見えた通りに入力する」
 調査票に書かれている通りにデータを収集する。すなわち入力する際に、判断や解釈などのバイアスがかからないようにする。
 「朝食に使う時間はどれくらいですか(単位:時間)」という設問に、「28」と答えてあっても、原則そのまま入力します。もちろん、調査票には「単位間違いでは」と書かれた付箋をつけます。1日は24時間なので、28はおそらく「分」のことですが、入力の段階で解釈を加えることはありません。
「矛盾回答を削除する」 : 「検票」
 一旦、調査票上のデータを入力すると、統計としての眺め方が可能になります。
 ここで、各回答を点検し、矛盾回答を原則削除します。上述の「28」はありえない数値なので、消去。回答者の誤りが明確な場合は、訂正することもあります。
 元々、一定の範囲内であれば、「矛盾回答は存在する」ことは前提とされていますので、その範囲内であれば問題はありません。誤差の範囲が分かりますので、結果を解釈する際に「どれくらいの誤差がある」ことを加味すればよろしい。

 この2つの作業は、かつては調査統計の集計では必ず行われるものでしたが、今では必ずしもそうではありません。
 簡単に言うと、正規の手続きを踏むと、「入札では落ちない」からです。
 25年前くらいから、行政調査は原則として競争入札がかけられるようになりました。
 競争入札はご承知の通り、「最も安い価格で応札した者が受注出来る」仕組みです。
 そうなると、調査会社・研究機関は、極力安価な値段で応札する必要があります。

 このため、最初に行われたのは、「一般管理費を削減する」ということです。
 「一般管理費」は実査段階で予測できない費用に対応するもので、「回収票が不足しているので追加調査を実施した」「交渉のために余分に交通費が生じた」などに対処する費用です。概ね20%から40%となりますが、まずはこれを半分以下に削減しました。
 しかし、皆が同じことを行うと落札出来ないので、今度は実査のステップの中で、削ってもそれと分からないものを削除しました。
 上記の「検票」などは削りやすい部分です。
 データを入力した後、矛盾回答を抽出し、調査票の記述に立ち返って点検しますが、これを行わない。 この作業には、ボリュームにもよりますが、1票30円から150円くらいの費用が発生します。対象が1万票であれば、最低30万円から150万円の圧縮が可能になります。
 統計学の研究者であれば、計画書と見積もりを見ただけで、どういう手法で行うか、またはどういうエラーが生じるかはすぐに判断出来ます。
 ただし、行政の担当者は数年ごとに部署が替わるので、その分野の詳細については専門家とは言えません。前例と比べ、大きな差異が認められなければ、これを承認します。
 民間のシンクタンクでは、あまり実務経験の無い研究員が実査を担当したりするのですが、調査を実施する方も、委託する方も、統計の意味を理解していなかったりします。

 さて、裁量労働制に関する調査統計について、データエラーの所在が指摘されていますが、「統計」として眺めると、次の通りの見解となります。
 「矛盾回答が2百を超えていた」→ 1万票規模の調査であれば、別に普通です。常にそれくらいの矛盾回答は存在するものです。処理を間違えなければ、影響はほとんど生じません。
 「1日が24時間を超えているものがある」 → まったく検票をしていないということ。
 1票ごとの検票は必ずしも必要ではなく、集計段階で条件式を与えてチェックすればよいのですが、これもまったく行っていない。

 いずれも、経費削減が招いた結果です。
 担当部署が外郭に委託すると、その外郭は民間の調査研究機関に再委託するのですが、その際にも1~2割の費用が消えてしまいます。
 今は委託側から受託先に、山のようなクレームが下りて来ていると思いますが、起きるべくして起きた事態です。
 なお、結果の解釈に誤謬があったことは、当然ですが、厚労省の担当者は承知しており、確信犯です。 それらしい情報をひっそりと添えてみたのですが、総理に大仰に扱われてしまったので露見したわけです。