◎本当に「不正」なのか その3 消費性向
さて、方向性の基礎が出来たところで、具体的な事実の確認に入って行く。
まずはどの辺に「アタリ」を探していくか。
これは「釣り」とほとんど同じ感覚だ。
まずは総務省『家計調査』から直近のデータを確認してみる。
『家計調査』はサンプル数8千程度の抽出調査で、調査した数値そのものが「正確に」全国世帯の状況を反映するものとは言えないが、同じ視角すなわち手法で重ねて観察することで、時系列変化を把握することが出来る。
ここは第2次安倍政権が発足した2012年以降で取りたいところだが、時系列分析を加えるにはパラメータに統一性をもたせることが必要だから、正確な数値を出すには、片手間の作業で、とは行かない。
ひとまず公表されている直近のデータを眺めるだけにしておく。あとは数値を補正してからの話。
比較を可能にするために、「二人以上の世帯」のうち「勤労者世帯」について見ると、世帯の実収入はこの4年間で1.06倍に上昇している。
これを世帯人員で割った値を見ると、一人当たりの金額は、2018年に4年前の1.09倍となっている。
この点だけ見ると、「収入が増えている」という見方はけして外れているわけではない。
気になるのは、この次だ。
実収入に対する可処分所得の割合を見ると、ほぼ同じ水準で推移しているから、金融資産の出入りはあまり変わっていないが、消費性向(消費支出の割合)が、急速に下がっている。
消費性向について、2015年を1とすると、2018年は0.94となり、実収入のプラス0.06を反転させた結果となる。ただし、もちろん、これには2018単年での変化が大きい。
通常、所得が上がれば、それに応じて、金融資産が増え、消費性向は下がる。また、所得が多ければ多いほど、低下傾向が強まる。要するに、余裕があることで、収入に占める消費の比率が相対的に下がるという理屈だ。
理屈はそうだが、実態はケースによって違う。
とりわけ、消費性向の低下は、数字の意味だけ見ると、「非消費支出」の増加、すなわち、税や社会保障負担の割合が「増えている」ことを示す。
このことだけを取り上げて単直にものを言うことは出来ないが、2010年くらいから所得階層別に変化を見る必要はありそうだ。
その意味でも、貯蓄の動向が重要だが、金融資産の状況は『全国消費実態調査』(対象5万人超で精度が高い)くらいでしか時系列分析が出来ず、かつそれでも5年置きの調査だという不利点がある。
実際に確かめてみないと何とも言えないが、バブル崩壊後の状況からは「賃金・所得が改善されている」という方向性は変わりないのではないか。
しかし、実質的な「暮らしの豊かさ」に結びついているかどうかは、確かめてみないと分からない。
高度成長期は、安倍政権よりも好景気期間は短いはずだが、その間に所得は倍増している。今はせいぜい1、2ポイントの話だ。
「戦後最長の」と大見得を切るほどのものではないのは確か。
統計分析の主眼は、最初にデザインを立て、それをどこまで検証して行けるかということにかかっている。ただし、こちらは公的機関でも、政治や行政に係わっている者でもないので、今後も元アナリストの視角でじっくりと分析を進めて行くことにした。
今のところ、フレームを作る段階なのだが、こんな簡単なデータにも引っ掛かる箇所が出ている。