日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎病室の思い出

◎病室の思い出
 小1の時に母が赤十字病院に入院し、そのまま長期に渡り療養することになりました。
 私は小2か3の時に、どうしても母に会いたくなり、一人でバスに乗って母に会いに行くようになったのです。
 家の前にバス停があったのですが、家から赤十字病院までは片道1時間半掛かります。
 往復のバス代と少々のご飯代のお金(確か1千5百円か2千円くらい)を握って、長々とバスの旅をしました。
 バスに乗っている間は、もの凄く不安でしたが、そこは何せ小2くらいの子どもです。

 病室に入ると、ベッドの母はいつも微笑んで迎えてくれました。
 母も長患いで、日がな病室の壁を眺めて暮らしています。
 子どもに会うのが嬉しかったのでしょう。
 椅子に座ると、母は私の手を取って「よく来たね」と撫でました。
 私は緊張していたのと疲れているせいで、すぐにベッドに頭を預けて眠りました。

 それからかなりの年月が経ち、今、私はあの時と同じように母の病室に通っています。
 母は私の顔を見ると、少しく涙を流し、何かを問います。
 よく聞くと、「ご飯は食べたのか」。
 自身が床についているのに、息子(もはやオヤジジイの域)のことを案じているのです。
 その母の手を今は息子の私が撫でるのですが、撫で始めると、5分も経たぬ内に母は眠ります。
 たぶん、心地よいのだろうと思いますね。
 立場は逆になりましたが、あの時と同じです。

 今の光景は、小2の私が母のベッドで夢に観ていたものと同じです。
 夢の中の私は大人で、ベッドの母の手を取って、「今日はこんなことがあった」と話し掛ける夢でした。
 そのせいで、今は「ああ。ついにこの時が来たのか」という感慨を覚えます。
 長い間、「いつかその日が来るかも」と思っていたことが、現実になったのです。