◎なぜ農家がケツを拭くのか
トランプ大統領が来日したが、大相撲を観戦した以外にさしたる結果は示して行かなかった。
「日本はステルス戦闘機を百機超購入する」と吹聴したが、これは前に安倍総理が決めていたことだ。
トランプ大統領の本意は、貿易交渉にあったのだろうが、おそらく安倍総理の要請で延期になった。
「参院選の後に」とトランプ自身が言っている。
でも、わざわざ「参院選後」にすることの意味は、「影響が出るから」ということに他ならない。
となると、要するに安倍総理は「米国に譲歩して、トランプの要求を呑む」ということだ。
ま、これまでトランプ大統領との交渉では、安倍総理は一度も首を横に振ったことが無い。
トランプの主張は、「米国車や農産物を買え」というものだ。
しかし、米国車が売れないのは、日本の市場の問題ではなく、米国車の仕様による。
日本のせせこましい道路では、サイズの大きい米国車は、走りにくいだけ。燃費も悪そう。
いつまで経っても日本仕様の車を作ろうとしないから、売れないのは当たり前だ。
それを、トランプは「客が商品を買わないのは、客のせい」にする。
ともかく、かなりの割合で、米国産農産物の関税が下がり、どっと入って来ることになりそう。
でも、よく考えると、おかしな話だ。
商品の値段は市場によって決まるが、日本には日本なりの経済環境がある。
牛肉の値段を下げようにも、飼料代とか、人件費とか、日本の水準の経費がかかる。
そもそも、「外国との価格競争力」を云々言うのはへんな話だ。
条件がかなり違うから、値段が違うのは当たり前だ。
国産の良いところは、生産の過程を監視でき、安心出来る農産物が得られる点にある。
手近なところで作っていれば、突然、流通が麻痺しても、回復は容易だ。
天災が起きれば、3日で商店の食品棚が空になるが、地場産品があれば、供給の再開が早くなる。
つまりは、農産物の国内で自給するのは、経済の問題ではなく、「安心と安全」や「国防」の問題だということだ。
それなら、値段が多少高くとも、支える必要はある。
関税で価格調整を行い、一定の保護をするのは誤りではない。
ここで、自動車の輸出を支えるために、農産物の関税を下げ輸入しやすくするということは、簡単に言うと、「自動車産業のケツを農家が持つ」ということだ。
これは本当におかしな話だ。
自動車産業は日本の国の産業の代表でも何でもない。
自動車の輸出が増えることで恩恵が得られるのは、その会社の従業員だけだ。
農家ではない。
よもや「そのことで景気が良くなるから、回り回って、国全体が良くなる」なんてことを言うバカはいないと思う。「風が吹けば」的な発想は、大学の講義としては聴けても、実生活では何の意味も無い。
ここで改めて言うが、「なぜトヨタやニッサンのケツを農家が拭かねばならんのか」。
農家がそのことで恩恵を受けることは、ひとつもない。
それなら、農産物の関税を下げ、輸入しやすくすることには、「見返り」が必要だと思う。
いまや自動車産業は空前の生産台数を達成し、過去に経験の無い収益を上げている。
不公平で、不平等極まりない。
もし農産物の関税を下げるのなら、折り返し、自動車の輸出に対し、一定の輸出関税をかけるべきだと思う。
そしてそこで得た税金を農業生産に還元すべきだと思う。
あるいは、農業生産物に関しては、「所得税を控除する」とかの方策だ。
農産物の生産に力を入れれば入れるほど、税金が安くなるなら、農家・農業経営体はやる気を出せる。
農業は「経済」ではなく「国防」なのだから、別に構わんでしょ。
そもそも原料を輸入して、製品を輸出しているのだから、貿易は黒字にならなければ意味が無い。
トランプの言う「不公平・不平等貿易」という発想自体が日本にはナンセンスだ。
最後にひと言。
誰もが思うだろうが、「都合の悪いことは参院選の後に」という発想は、ものすごく姑息だと思う。
でも、過去の例から見て、典型的な「安倍政権的ふるまい」になっている。