◎夜中に叫ぶ人
家人の部屋の窓の外からは、すぐ隣のマンションの階段が見える。
ほんの20メートルか30メートルの距離だろう。
しばらく前から、そのマンションが「夜中に騒がしい」と言う。
深夜の2時過ぎになると、会談でバタバタと足音が響くというのだ。
そして「誰かいるよ。怖い、怖い」と叫ぶ声が聞こえると言う。
これが週に一二度はあるらしい。
「子どもが夢を観ているんじゃないのか」
夜泣きをする子はたまにいる。
「大人の女の人だよ。たぶん、酔っ払って騒いでいる」
なあんだ。
「夜の勤めに出ているひとじゃないかな」
仕事で酒を飲んだが、酔っ払ってしまい妄想を観ているというわけだ。
「それじゃあ、相当なアル中だな」
酒を飲み過ぎると、しょっちゅう妄想を観るようになるそうだ。
ひとまず話はこれで一件落着した。
「あんまり煩いようなら、大家さんに言っとくんだな」
知り合いだし、さらっと告げるだけでよい。
ところが、最近も同じことが続いているらしい。
バタバタと足音がして、「誰かいるよ」「怖い」「こわ~い」。
いつも同じらしい。
その「いつも同じ」というのは、少し引っ掛かる。
酔っぱらいは「いつも同じように酔う」わけではないからだ。
「その女性が観ている『何か』が妄想の産物だと思っていたが」
一度や二度なら、まあ、そうだろう。
でも、それが、週に一二度ずつ、半年も続くとなると、状況が変わって来る。
「それって、※※小学校で夜中に起きることに似ているよな」
真っ暗な教室でパタパタと足音がして、同じ子どもの声が聞こえるらしい。
「その女の人が『何か』を観て騒いでいるのではなく、その女自身が『何か』だったりするのかもしれん」
この地域は不審事が割と多い。
前に裏の家に住んでいた家族は、新築の家を半年住んだだけで諦め、家を売って出て行った。
ま、まだ本当のところは分からない。
秋口から起きているそうだから、三月頃には終わる。
それがまた秋に始まるなら、それこそ「この世ならぬ何か」が関わっている。