◎マジな話
家人と居間に座っている時に、隣の息子の部屋の境目から、「ガタガタ」と割と大きな音がした。
息子は襖を開けて眠るので、部屋の状況は分かるのだが、音のした箇所は机の近く。
息子の布団とは別の方角だ。
「気持ち悪い。幽霊が騒いでいる」
T沢に住んでいた頃に、幽霊が騒がしく動き回った経験があるから、家人は実態を知っている。
想像や妄想ではなく、実体験を踏まえているのだ。
そんな家人が言うので、すぐに「そんなことはない」と打ち消した。
「この時期は気温の上下向で家がきしむんだよ。ただそれだけ」
もちろん、嘘だ。
あまり良からぬ想像をさせてはならぬと思うからだ。
音がした箇所には、理由がひとつしかない。
そこには、当方が息子にやった刀が置いてある。
音はその位置から出ていた。
音がする理由は、たったひとつ。
「そろそろ俺を抜いてくれ」ということ。
かつて百数十年前に経験したことを、思い出させようとしている。
天保の一揆の時に、自分が何をしたかは、何百回も夢に観ている。
あの音を聞けば、「絶対に気のせいではない」と思う。
ひとが渾身の力で「ばしばし」と物を叩く音だった。
「俺はその時の俺ではないのだから、そう責め立てるな」
そう祈願して、お焼香をした。