◎夢の話 第790夜 穴
二十二日の午前一時に観た夢です
俺の趣味は宝探しだ。金属探知機を持って野山に出掛け、遺物を探す。
ま、さしたるものは拾えない。住居の近くなら、大半が釘かパイプだ。
一番効率が良いのは「秋のビーチ」で、海水浴客が割と物を失くすから、これが出て来る。
イヤリングやアンクレットみたいなヤツだ。
他は全然ダメで、たまに錆びた寛永銭か明治の銅貨が出るくらい。
でも、今回、俺は十分に楽しめると思っていた。
郷里の実家の裏にある山には昔の金鉱跡があるのだが、岩陰に坑道の跡がある。
もちろん、二十㍍しか中には入れない。もう中は崩れてしまっているからだ。
だが、道具類が打ち捨てられていたりすると、これは入り口付近に残っていることが多い。
狙いは金ではなく、そういう遺物だ。
金鉱には子どもの頃に行ったきりだから、場所を探し当てるのに苦労をした。
坑道の入り口をようやく見つけ、早速、中に入ってみた。
もはや天井が崩れ、あちこちに穴が開いて、そこから空が見える。
入り口から機械のスイッチを入れたが、まったく反応が無かった。
ま、大体いつもそんなもんだから、落胆もしない。
俺にとっては懐かしい場所のひとつだから、ここに来るだけでも心が躍った。
坑道はやはり奥が崩れており、もはや十㍍しか先には進めなかった。
入り口の明かりが届くし、天井にも隙間があるから、中は鮮明に見える。
一番奥に目を遣ると、坑道の底に穴が開いていた。
直径が三十センチくらいの小さな穴だ。
「なんだろ。この穴」
覗いてみるが、さすがに穴の先は真っ暗だった。
深さを確かめようと、小石を落としてみたが、何ひとつ音がしない。
「かなり深いか、あるいは」
すぐ下に砂地の底がある、ということだ。
そこで、スマホに付けていた鈴を一個外し、それを穴に落としてみた。
底が浅ければ、鈴が鳴る筈だからだ。
ところが、これもまったく音が返って来なかった。
「コイツはもしやかなり深い穴ではないのか」
車に戻り、デジカメを持って戻り、穴の奥をフラッシュ撮影してみた。
だが、思った通り、ただの黒い穴が写るだけだった。
「どうすれば深さを確かめられるのだろう」
いざ気にし始めると、気になってしょうがなくなる。
ま、長丁場になるかもしれんが、やれるだけやってみよう。
ここで俺は一服することにし、弁当を食べることにした。
弁当はお握りとお茶だったが、握り飯を食べている途中でふと思いついた。
「昔話にお結びを穴に落とすのがあったよな」
その後で、小人がお礼にお宝をくれるとか、そんな展開になった筈だ。
そこで悪戯心が沸いて来て、俺は握り飯を一個穴に落としてみることにした。
暗い穴に握り飯を放り込んだが、やはり何の音もしなかった。
「中に獣が住んでいれば、喜んで貰えたかもしれんな」
ここでとりあえず、元の作業を済ませることにして、金属探知機で穴全体を探った。
入り口から中に入るとそこからは割と広く、四五㍍の幅で十㍍ちょっとの奥行きがある。
穴の隅で、錆びた手斧(ちょうな)と金梃子が見つかったが、割と良い収穫だ。
そこでさっきの底穴のところに戻ったが、着いた瞬間、穴からポンと何かが飛び出て来た。
その何かが俺の足元に転がったから、拾ってみると、ラップに包まれたサンドイッチだった。フランスパンにあれこれを挟んだ奴だ。
「ありゃりゃ。この穴の向こう側には誰かがいるということだな。お握りが来たからサンドを返してくれたわけだ。一体、どこと繋がっているのだろう」
こんな面白い話は無いぞ。
そこで俺は車から、ロードマップを持ち出して、自分のいる地域のページを破った。
俺が今いる場所に印を付け、紙を丸めようとしたが、そのままでは軽いので、五百円玉や十円玉を包んだ。
そいつを穴に放り込み、そのまま暫く待った。
十分ほどずると、同じような紙包みが戻って来た。
これを開いてみると、中は俺が送ったのと同じような地図だった。
「まじかあ。ウルグアイなのか」
地球の裏側じゃないか。
しかし、地球の裏側は大西洋だから、正確な反対側ではなく、少しずれている。
「ま、自然の造形物なんだから、正確な直線のわけはないな」
当たり前だ。
でも、よく考えると、穴が地球の真ん中を通って「裏側に抜けている」ってこと自体が理屈に合わない。
だが、現実にその穴は俺の目の前に存在していた。
「コイツは紛れもない事実だぞ」
何故なら、俺に届いた地図の裏側には、文字が書いてあったからだ。
「わたしの祖母はにほんじんです。だから、少しだけにほんごが分かります」
ヘタクソな字だが、これは助かる。
俺はスペイン語もポルトガル語も出来ないから、ウルグアイ人と意思の疎通を図ることが出来ないのだ。
「こりゃスゴイぞ。地球の裏側とほんの十分でやり取りが出来る」
今のところ小物だけだが、物の交換も出来るわけだし。
「お互いに金を買い、それを送るだけで10%の利益が生まれる」
消費税があるからな。だが、ウルグアイの金売買の扱いはどうだっけな。
「では向こうにあって、こっちには無いものと言えば」
ま、麻薬だな。片道十五分なら、警察にバレずに済む。
でも、すぐに冷静になった。
「イケネ。そいつは犯罪だよ」
合法的なヤツを考える必要がある。
ここで、もう一度、穴から物が飛び出て来た。
冊子のようなノートだった。
そのノートを開くと、最初の方に何やら図のようなものが3つ描いてあった。
No.1 hole No.2 Coconut No.3 Rubber balloon
「なるほど。コイツはこの穴がどういうものかを考えているわけだな。一つ目が細い穴が地球の裏側まで通っているケースで、次が地球空洞説だ。三つ目がゴム風船か。なるほどね」
よく見ると、最後の三つ目に「×」印が描いてある。
「こりゃ一体どういう意味だ。なぜコイツが×なんだろう」
一二分ほど考えさせられたが、どうやら結論は一つしかない。
「分かったぞ。もし地球がゴム風船みたいな存在なら、こうやって穴を開け、圧力を変えたら・・・」
そんなのは子どもの頃から、幾度となく経験しているよな。
「ゴムに裂け目が入って、風船がパンとはじけ飛ぶことになる」
ウルグアイのコイツは、「地球がパンクする」ことを危惧しているわけだ。
おいおい。そんなの起きるわけが・・・。
だが、それからほんの数秒後に、俺は今、目の前で起きている事態の重大さを思い知らされた。
穴の前後に突然裂け目が出来、それがメリメリと広がり始めたからだ。
「マジかあ」
この時、俺は子どもの頃に爪楊枝でゴム風船を突いてみた見た時のことを思い出した。
「あのときゃ、破れたゴムが俺の顔に貼り付いたっけな」
ここで覚醒。