日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第913夜 自殺霊の虜

◎夢の話 第913夜 自殺霊の虜

 15日の午前3時に観た怖い夢です。

 

 夢の中の「俺」は三十歳くらい。ごく普通の会社に勤めている。

 これまで無難に暮らして来たが、最近、会社の経営状況が悪くなって来た。

 四十手前の中核社員がポツリポツリと辞めて行く。

 社長以下、重役の姿をあまり見掛けなくなった。

 この状況では、さすがに「危ない」ことが分かるから、若手も動揺し始めた。

 顔を合わせる度に、「この先どうなるんだろ?」みたいな話になる。

 

 「どうもこうもあるかよ。今のような状況で、仮に転職しようとしたって、そうそう見つからないわけだし」

 目の前の仕事をこなすしかない。

 だが、中核が次々に辞めているので、俺くらいの社員の負担が大きくなる。

 仕事をこなすためには、毎日遅くまで残業する必要があるし、休みも無い。

 次第に疲れが溜まって行く。

 

 女子でも深夜残業は当たり前だから、毎夜、必ず数人が終電まで残っている。

 俺は家に行き来するより、少しでも眠りたいので、着替えを会社に置いて、長椅子で寝泊まりするようになった。

 それでも疲れが溜まる。

 いつも頭がぼおっとする。

 

 「ちょっと考えなくちゃいけないわね」

 向かいの机の女子社員は、俺より数年先輩なのだが、最近、俺に愚痴をこぼすようになった。

 その先輩も俺も、急に職位が上がったのだが、何のことは無く、上がいなくなったので回って来ただけ。責任だけが増える勘定だ。

 「何かいつも疲れていて頭がぼおっとしてるし、どうでもよくなって来たんですよ」

 俺はそう答えたが、実際、頭がよく働かない。

 

 どうにも動けなくなった時には、屋上に行き、そこで小一時間ほど過ごす。

 ベンチに座り休むためだが、やはり居眠りをする。

 屋上は風が通るから、すぐに体が冷える。しかし、疲労の方が勝るから、眠り込んでしまい、目覚めた時には死体みたいに冷えていることがある。

 

 ある夜では、ベンチで眼が覚めたら、夜中の十時だった。

 俺の会社のビルは三十階建てだから、屋上は真っ暗。縁に行くとそこで夜のネオンが見渡せる。

 「このままじゃあ、過労死もありだよな」

 というか、何でもいいから、「今の状況から解放されたい」と思うようになって来た。

 

 頭がぼんやりしているので、感覚が鈍くなっている。

 自意識が頭の後ろにあるような感覚だ。

 机に座りあれこれと仕事の会話を交わすのだが、俺は俺の後ろに立ち、俺自身を眺めているような気持ちに囚われる。

 

 たまにふっと気が遠くなり、意識を失うことがある。

 普通に動いているのだが、直前に起きたことを忘れてしまうのだ。

 我に返り、数分前に何をしていたかを考えるが、よく分からなくなったりする。

 

 そして、この夜が来た。

 はっと我に返ると、俺は屋上の縁の防護柵の上にいた。

 俺の前には、ずっと遠くまで夜のネオンが広がっている。

 「こうやって見れば、遠くまで見渡せるわけだな。すごくきれい」

 何だか、自分がそこに立っているという実感がない。

 すぐ近くに隣のビルがあるが、そこは十五階建てだから、かなり下に見える。

 何となく、ひょいと飛び移れそうな気がする。

 「9.11の時に、ビルの上から次々に人が飛び降りた。ああいう時には、自分自身がスーパーマンのように別のビルの屋上に着地出来るような感覚に囚われるって話だったな」

 そんな気がする。

 

 ここで我に返る。

 「それって願望がもたらした錯覚だよな。ここから落ちたら死ぬだけだ」

 そこで、手摺の上から内側に下りようと思うのだが、体が強張って動かない。

 深夜の高層ビルの屋上にいたから、すっかり冷えているわけだ。

 俺はそのまま動けずに立ち続ける。

 俺の意識は少しずつ後ろに下がり、ぼおっと遠くを眺めている。

 「ここから飛んだら、きっと気持ちいいわよ」と誰かが囁く。

 俺は、俺の中に「俺ではない誰か」がいることに、この時気付いた。

 俺の体が傾き、前のめりになる。

 ここで覚醒。

 

 疲れのため、体と心のバランスを欠いたところに、別の意識が入り込み、明確な自死の意思を持たぬまま死んでしまう男の夢だった。

 翌日のニュースには「過労のため自死」と載るだろうが、実際には少し違う。