◎気が付けば十年目
火曜は休日だったが、我々クラスの患者になると関係なし。定期通院に加えて、「時々、救急窓口」が入る。
この日は定期の方だったのだが、病院を出る時に足が止まった。
ロビーには誰もいない。
「そう言えば、ここに初めて来たのは十年前だな」
自身の不調に気付き、朝の五時頃に自ら救急窓口に来たのだが、対応可能な医師が居らず待合でそのまま朝まで待った。
異常を感じたのが「息をする時に妙な音がする」というものだったので、呼吸器だと思ったのだ。
別段、苦しくはなかったのだが、そこは直感だ。
九時前に呼吸器科の医師が診察して、五分で「これは心筋梗塞」と見取り、すぐに専門病院を手配してくれた。
医師は「救急車で行った方がよい」と言ったが、自分の車があるし、そっちの病院までは一キロも無いから、当方は呑気に運転して行った。
だが、玄関で担架に乗せられ、そのまま手術室へ。
冠状動脈が三本ともほとんど塞がっていたのだが、何とか死なずに済んだ。
その後は「ほとんど死人」のままでいる。
今が「おまけ」「おつり」の人生だと思えば、割と長く好き勝手に楽しんで暮らしていることになる。
ま、人格にかなりの歪みが出たのは間違いない。
一度、「お迎え」に直接会ってしまえば、そりゃ考え方も変わりますって(笑)。
たまに最初の発症の時を思い出すが、ツイている時には、小さなことが次々に「良い方に」「良い方に」と転がる。
あの時、当方が助かったのは「たまたま」に過ぎない。
「家族控え室」の近くで耳にしたが、救急患者の半分は裏目に出る人だ。「お昼ご飯を普通に食べていたのに」、三時前には心臓が止まっているケースが普通にある。
喜怒哀楽の全てが「生きていることの証」なのだから、一日一日を噛みしめて暮らそうと思う。
この先も「丸儲け」の内なんだし、今はひたすら感謝だけ。
十年前の呼吸器医、循環器医と「冴えている」医師のリレーに当たったので、定期通院はその二か所の病院にしている。人気のないロビーを目にして、最初の時を思い出した。