日刊早坂ノボル新聞

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◎夢の話 第954夜 もうひとつの人生

夢の話 第954夜 もうひとつの人生

 12日の午前2時に観た夢です。

 

 夢の中の「俺」は三十台だ。

 妻が一人、まだ赤ん坊の娘が一人で三人で暮らしている。

 若いが会社の経営者で、小さい会社だから、何でも自分でこなす。

 家にはほとんど帰らずに、朝から晩まで働いて、会社の長椅子で寝る。

 大して儲かってはいないのだが、ひとまず仕事は回っている。

 

 (何だか誰かの過去をなぞっているようだが、夢の中の「俺」は、覚醒時とは関わりの無い別の人生を送っている。妻も別人で、新潟生まれだ。)

 

 久々に家に帰り、玄関を開けると、妻が無表情に「帰ったの」と言った。

 シャワーを浴びて、居間に戻り、冷蔵庫からビールを出した。

 いつもなら、すぐに妻の小言が始まるのだが、この日はしんとしている。

 

 「気持ち悪いな」

 ぎゃ-すかぎゃーすか騒ぐのが定番なのに。

 ここで妻の小言をイメージする。

 「俺が一生懸命働いているから、似合い不自由なく暮らしていられるだろ。十分に生活費も小遣いも渡している。俺がキチキチ家に戻って来るようなら、生活するのがやっとの貧乏な家庭になる。お前はそれでいいのか」

 まだ小言を言われぬうちから、頭の中で反論を用意した。

 いつも冷戦から始まり、お決まりの喧嘩に至る。きっと今日もそう。

 それを予期している。

 

 だが、妻は自分の部屋に籠ったまま出て来ない。

 妻はまだ六か月の娘の面倒を看るために、ひと部屋を自分と娘の寝室に充てていた。

 「おかしいな」

 毎度の「小言からの夫婦喧嘩」の展開が始まらない。

 家の中はしんと静まり返ったままだ。

 

 頭の中であれこれ考える。

 「さては、俺が接待用に使っている店の子と出来ているのがバレたか」

 遅くまで働くから、少しでも寝るためには、脳の緊張をほぐす必要がある。それで、接待が無くとも店に行くようになり、自然と若い娘と出来た。

 「だが会社経営が性欲を増進するのは仕方が無い。中枢が近いからな」

 経営者だけでなく、ストレスの掛かりやすい職業の男性は、必然的にエッチになる。

 警察官とか、教師とか、と数えていると、「大体の男はスケベだ」という結論に落ち着く。

 

 我に返り、「だがのめり込んだりはしていないから、気配は出ていないだろ」と考え直す。

 じゃあ、何だろ。

 

 「家で一人で子育てをしているから、育児ノイローゼかもしれん」

 そいつは不味いよな。現状で手が回らぬのだから、妻が心に問題を抱えるようになったら往生する。

 「発作的に死んじゃったりされると本当に凹む」

 必死で働くのも、生活を守るためなのだが、そのせいで生活が崩れて行ったりする。

 あれこれ「拙い事態」を想定するが、向かいの部屋からは何の音もしない。

 

 家の外では、秋の虫がわんわん鳴いている。

 蛍光灯の灯りの下で、ビールを飲んでいたが、突然、気が付いた。

 「俺って女房子供がいるヤツだったか?いると思っているだけじゃあないのか」

 何だか心許ない。

 今の「俺」は本物の俺じゃあ、ないのかもしれん。

 仕事や家族のこと、あるいは俺自身の記憶の隅々まで、実は現実に起きたこと、起こっていることではないのかもしれん。

 

 ま、そんなのは向かいの部屋の扉を開けて確かめれば、はっきりする。だが゙・・・。

 「その部屋で妻子が死んでいたりするのも嫌だが、あるいは何もないがらんとした部屋だったという展開も嫌だよな」

 いずれにせよ、俺の存在が否定されるということだ。

 俺は向かいの部屋の扉を眺めながら、長く逡巡している。

 ここで覚醒。

 

 夢の中の自分は、覚醒時のそれとは、まったく別の人生を送っている。そもそも存在していないのだが、自身は実在すると信じている。存在自体が妄想だ。

 だが、そういう妄想から覚めた時、自分の存在は一瞬で消えてなくなる。

 後味の悪い夢だが、哲学的な意味での悪夢だった。

 

 せっかく、夢に「怨霊が出て来ない」良い時期だというのに、観るのは別のタイプの悪夢になっている。