


◎カマド神
「竈神」はひと言で言えば「主に仙台領でしようされた防火の神」なのだが、必ずしも仙台領だけではないようで、南部領でも時々、農家の解体などで出て来る。
私の郷里でも(南部領)、畑の土の中からこれが出て来たことがあった。かつて使われたものが時代を経て、家と共に廃棄されたらしい。
厨房の柱、すなわち、火を使う竈の絵に配置し、火防を祈念するものだ。
一刀彫の素朴な味わいのものが多く、外国の民芸品のように見えるが、れっきとした日本製で、かつ古い。
文政か、あるいは天保年間くらいには既にあったのかもしれぬ。
画像の大型のものは北上で出たものだが、このサイズであれば、村に一軒二軒の豪農の竈だろう。これを支えられる柱があまりない。
嘉永年間に建てられた農家の解体工事によって外に出て来た。
江戸期のこのサイズなら、現存総数で百個は越えぬのではないかと思う。
これはこれを飾る豪農がそんなにいなかった、という理由だ。
昔であれば、いざ出火すれば為す術も無かったろう。
竈に神を安置し、息災を願う人々の心が反映されている。
大型のものは通常の釘では支えられぬから、太い楔を打ったか、あるいは最初から柱にこれ用の突起をつけていたのか。柱に付いている状態で見てみたいものだ。
普通の家では、小型のものを使用した。こちらは明治以降のものらしい。
当たり前だが、室内に置くもので、外には出していない。撮影目的で出したということ。
こういう品は、田舎の農家の竈に戻してやりたいが、これを飾れるだけの家屋が残っているものなのかが問題だ。
これを入手した古道具屋は、解体工事後の古民具荒物を専門に扱っていたが、平成初頭には姿を消した。店主が卒したことによる。
その後、古道具屋自体がどんどん姿を消し、眺めているだけで楽しくなるようながらくたを扱う店が無くなった。