日刊早坂ノボル新聞

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◎古貨幣迷宮事件簿 「軍票の話」

◎古貨幣迷宮事件簿 「軍票の話」

 かなり昔、私がまだ二十歳くらいの頃に、タイのバンコクからシンガポールまで、鉄道とバスを乗り継いでの旅をしたことがある。

 タイとマレーシアの国境付近の町に数日ほど滞在したのだが、毎日、同じ店で食事をしていた。

 日本人がほとんど訪れることのない田舎町で、交通の要地でも無かったので、「日本人がいる」という話がすぐに周囲に伝わったらしい。

 二日目の夜だったか、いつもの屋台同然の店で食事をしていると、四十歳くらいの男が近づいて来た。

 「日本人ですか?」

 「そうですよ」

 すると、男は紙幣を一枚取り出して、私に見せた。

 「昔のお金だが、父が日本の軍人がいずれお金に取り換えてくれると言っていた。これを取り換えてくれませんか」

 その時の「軍票」(軍隊が発行するお金)がこんな風に赤い色をしていた。

 ま、旧日本軍のケツを拭けと言われても、少し困ってしまうが、これも歴史の事実の一端だ。

 この時は数百円相当の札と軍票とを取り換えた。

 この札ではなく、タイ方面かマレー方面用の軍票だったと思うが、こんな風に赤い色の札を見ると、その時の出来事を思い出す。

 後にシンガポールに向かったが、夜市の屋台を見て回っていると、軍票を売っている屋台があった。一枚五六十円だったが、アジアの各地に残っていたようだ。

 物品を徴発するのに、これを渡したわけだが、実際には金には換えられず紙屑となった。

 

 こういうのも歴史の一端だから、事実は事実としてよく見る必要がある。

 家人はアジア系外国人だが、祖父を日本軍に殺されている。

 祖父は一介の民間人だったが、日本軍が村に来て、村の男を全部集め、塀の前に立たせて機銃で殺したそうだ。

 その国では、抵抗運動が激しく、日本軍はゲリラに手を焼いていたので、あたりを付けた村の男を全員殺した。

 家人の祖母はその一部始終を見ていたので、日本人を見ると、復讐のために鉈を持って追い駆けた。

 このため、私が家人と結婚することになると、「絶対にお祖母さんのところに行ってはならない」と言われていた。

 ウクライナではロシア軍が民間人を殺しているが、男性を無差別に殺す理由は「怖いから」だ。これは戦地ではどこも同じで、同じことが起きる。

 殺されるのが怖いから、先に殺す。これが戦場だ。

 是非は別として、事実は事実としてきちんと向き合う必要がある。

 なお、一部左翼人のように「いつも済まなそうな顔をしろ」という意味ではないので念のため。やったことはやったこと、やっていないことはやっていないときちんと「直視する」ことが重要だ。日本軍のことも同じ。

 幾つかの国では熾烈なレジスタンスが展開され、日本軍も相当な被害を受けた。

 日本軍にやり返した国では、その後戦争被害について長らく言い立てることをしない。 

 

 ちなみに、画像の品は元は百枚括りだったが、各地で回覧に供しているうちに、九十幾枚かに減った。一二枚ほど黙って失敬するものがいた、ということ。