◎夢の話 第1K35夜 ふたくち女
二十一日の午後五時に観た悪夢です。あまり調子がよくなく、病院から帰るとすぐに寝入ってしまったのだが、その時に観たので、悪夢になった模様。
悪夢は1)体、2)こころ、3)魂(あの世)の関りの中で生じる。
我に返ると、どこか知らぬ廃屋の中にいた。
「ここはどこだろうな」
ま、夢の中だから、具体的な場所は無いかもしれん。
時々、俺は夢を観ている時に「自分は夢の世界にいる」と自覚することがある。この夢では最初からその自覚があった。
「廃屋かあ。おあつらえ向きのホラー設定だ」
廃屋や廃病院みたいな場所は、幽霊が出そうな典型的な「スポット」なわけだが、実際には、そういう場所だから出やすいといったことはない。どこにでもいるわけだから、光や空気のTPOが適合するところには、どこでも出る。出るから出るのであって、「その場所だから出る」わけではない。
しかし、何だか建物の中の気配が悪い。
「この感じは今まさに『出る』ところだな」
目の前は廊下で、突き当りはТ字型の構造だ。
数秒後、その突き当りの陰から不意に「人影」が現れた。
やっぱり。
人影が俺の方を向く。背丈が百八十近くありそうな「女」だった。
長い黒髪を持つ女の左頬には、紫色の刺青が施されている。
先住民か。
女は俺を認めると、ゆっくりと近付いて来る。
そして、俺の十㍍前に来ると、そこで足を止めた。
俺は警戒し身構える。
女が頭を少し低くすると、頭頂部が見えた。
すると、その頭頂部がぱっくりと二つに割れた。
「うわあ。妖怪じゃないかあ」
これは確か、「ふたくち女」という日本の妖怪だ。
目の前では、有り得ぬ光景が広がっているのだが、しかし俺は頭の中で別のことを考えていた。
「ふたくち女ってのは、どんな妖怪だったっけな?」
確か、こんな話だ。
男が嫁を貰ったが、つつましい性格でほとんど物を食べない。
何かを食べた形跡がないのだ。
しかし、家の中の米や味噌がどんどん減って行く。
男が不審に思い、仕事中に家に戻り、家の中を覗き見ると・・・。
嫁の後頭部がぱっくりと開き、口を開けていた。
嫁はその口でばくばくと手当たり次第に食べ物を食べていた。
「なあんて話だ」
教訓は、女は化けるのが上手だから、見た目のつつましやかさに騙されてはいけない。
そんな話だ。
「おいおい。悠長にそんなことを考えている場合じゃねえぞ」
女の化け物は首を激しく振りながら、俺の方に近づいて来る。
俺はそれを見ながら、「コイツは『遊星からの物体X』に出てたな」と考えた。
リメイクの方の女性隊員が怪物に化けるヤツだ。
どこか艶めかしいつくりになっている。
なんでだろ。
答えはすぐに分かった。
その女の頭の口は、ものを食べる方の口ではなく、別の口だった。
俺はここでため息を吐いた。
「夢に最初に現れる異性は、本人の自我の一部だ。目の前のコイツは女。となると、俺の頭の中には女の恥部に象徴される何かがあるということなのか?」
ゲンナリする。
ここで覚醒。
文字に落とすと、「まるでギャグ」のようだが、その場に立つ当事者としては、怖ろしさの方が先に立った。
目覚め当た後に、何かを始めようとPCに向かったが、悪寒がしたのですぐに諦め、夕食の支度をした。こんな悪夢を観るのは、まだ体調が回復していないということだから、この日も休養することにした。
殆どの人は知らぬだろうが、いざ重篤な病気に罹ると、その途端に酷い悪夢が始まる。
来る日も来る日も、眠る度に悪夢を観るようになる。
悪夢は三者(心・体・魂)のバランスが崩れた時に、いずれかが他よりも強い影響を与えることで生まれる。
追記)この夢は「予兆」だった。この後、具合が悪くなり、ほぼ丸一日横になっていた。
まったく起きられない。
その間、ずっと悪夢を観っ放しに。
異常な事態で、まだ「障り」から抜け出ていないのだと知った。
果たしてこれを乗り切ることが出来るのかどうか。
悪寒がして、ひたすら怖ろしい。