日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第1K46夜  ワクチン

夢の話 第1K46夜  ワクチン

 三十日の午前三時に観た夢です。

 

 我に返ると、俺はベッドに寝かされていた。

 体には色んなチューブが繋がれている。

 「集中治療室だな。俺はかなりの重病らしい」

 ひとりの医師が近づき、俺の呼吸器を外した。医師は防護服を着ている。

 「コンドーさん(仮名)。あなたは死に瀕しています」

 そんなことはこの状況を見れば分かる。

 「あなたの体はウイルスに冒され、あと数時間も持たぬでしょう。ひとつ提案ですが、新しく開発されたワクチンを試してみては如何ですか」

 「ワクチンですか。そんなものがあるなら早く打って下さい」

 「ですが、これはまだ開発中です。薬やワクチンには効能があると同時に副反応もあります。このワクチンの副反応もあれこれ推測されています」

 「ううう。でも死なんで済むなら構いませんよ」

 今も苦しんでいるのだから、早く打ってくれ。

 

 医師は一瞬黙ったが、数秒後再び口を開いた。

 「では二三確かめることがあります。まず開発中のワクチンは三種類あります。V型ワクチン、W型ワクチンと、Z型ワクチンです」

 「どれでも良いから、すぐに打って下さい」

 「それぞれ、体の反応が違うのです。あなたは肉と野菜のどっちが好きですか?」

 「・・・。肉ですね」

 「ではステーキは、ミディアムレアとウェルダンのどっちが好きですか?」

 「どっちでも良いですよ。こだわりません」

 「普段の生活は昼型ですか。夜型ですか?」

 「夜中に仕事をすることが多いです。先生、こんな情報が何の役に立つのですか」

 医師が頷く。

 「十分に役立ちますよ。大体分かりました」

 医師が看護師に目配せする。

 「最後の質問です。仕事を夜に集中的に行いあとは寝ている。一日をフルタイムで使えるが、月に数日は意識が無くなる。日がなぼおっとして暮らす。この三つのうち、しいて選ぶとすればどれがいいですか?」

 「うーん。性格的には毎日、夜昼問わずバリバリと動けるのがいいです。疲れが溜まったら、四五日寝て暮らすってことでも構いませんね。先生、息苦しくて堪りません。早くどれでもいいから打って下さい」

 すると、医師は看護師の差し出した三本の注射器の中から、「W」という印の付いた一本を手に取った。

 「あなたに適したワクチンはW型のようです。ではすぐにこれを打ちますね。これで助かりますよ」

 医師が俺の肩にワクチンを打つ。

 「すぐに眠くなりますが、次に目覚めた時には、ウイルスは除去されていますから」

 医師の言葉の通り、十秒も経たぬうちに、俺は眠くなった。すぐに意識が遠のく。

 

 再び目覚めると、俺は個室に移されていた。

 「もう集中治療室ではないのだな。普通の病室だ」

 窓の方を見ると、外が暗い。どうやら半日は眠っていたようだ。

 ここで、部屋の灯りが点いた。どうしたことか、俺の病室の入り口は鉄格子で外側と隔てられていた。

 ドアが開き、あの医師が顔を出した。

 「やあ、どうですか?」

 「気分はいいですね。あんなに苦しんだのが噓のようです」

 「ガラッと変わったでしょ?」

 「ええ。早速、腹が減って腹が減って」

 実際その通りだった。俺の腹は「きゅう」と音を立て続けている。

 「肉とか食べたいですね。ステーキとか」

 自分で言って置いて言うのもなんだが、俺が食べたいのはステーキではないような気がする。

 

 医師は少しく笑みを浮かべつつ俺に言った。

 「そうだろうと思いますよ。ワクチンを打った患者は皆が肉を欲しがるのです」

 ここで俺は考えた。

 (この医師は、確かワクチンには三種類があるって言ってたな、V型、W型、Z型だ。急拵えのワクチンだから、きっと何かの言葉を略したものだ。)

 腹が減って堪らない。急激な飢えが俺を襲う。

 

 俺が思い付くよりも先に、医師が口を開いた。

 「ご想像の通り、ワクチンの型は略号です。VはVampire、WはWerewolf・・・」

 さすがの俺も気が付く。

 「吸血鬼(Vampire)、狼男(Werewolf)と来たら、Zはもはやゾンビ(Zomby)しかねえじゃないか。なんてものを打つんだよ」

 「いや、あなたが犯されたウイルスは、もはやそれらしか太刀打ち出来ぬ代物です。このウイルスだけでなく、あなたはかなり長く生きられます」

 「その後に、ですが、という言葉が続くわけだな」

 「各ワクチンの効能と副反応はかなり弱くなるように改良しています。ですが、幾らか本来の持ち主の素質を受け継ぐことになります」

 「すると、俺が打って貰ったのはWワクチンだから・・・」

 「そう。あなたは狼男の特性を幾らか受け継ぎます。すぐに分かりますよ。今日は満月ですからね」

 医師が顎をしゃくる。その先にあるのは窓だ。その窓の外には、月が煌々と光っていた。

 

 ざわざわと俺の体が波打つ。全身の毛が立った。

 「俺を鉄格子の部屋に入れていたのはそのせいだったか」

 またもや医師は黙って頷いた。

 俺はその医師に告げた。

 「先生。俺は先生に俺の病状を正確に報せなくてはならない。俺は今、すごく腹が減って堪らないのです」

 「そうでしょうね。すぐに何か用意させます」

 「それともうひとつ」

 「何ですか?」

 「たぶん、先生が想定したよりもワクチンが効いていて、今の俺はこんな鉄格子など簡単に破れるのです」

 医師がぎょっとした表情で俺を見た。

 俺はすぐさま鉄格子を破り、医師をとっ捉まえると、その場でその医師を食った。

 ここで覚醒。

 

 昨日、畑の脇の直売で生ニンニクを買い求め、これをレンジで焼いて食べた。

 何か体に足りない成分があったらしく、ニンニクにその成分があったようだ。

 久々に夜中に苦しむことなく、朝まで寝られた。

 この「ニンニクで・・・」という要素がこんな夢を観させたようだ。

 

 朝から出掛ける予定なので、一発書き殴り。推敲も校正も無し。