日刊早坂ノボル新聞

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◎古貨幣迷宮事件簿 「ドラスティックな展開」

金融機関の金庫から出た青銅貨

◎古貨幣迷宮事件簿 「ドラスティックな展開」

 しばらく前の話になるが、テレビで「レーザーを使った銅製品の青錆の除去」について紹介していた。これを観た人も沢山いると思う。

 青錆に覆われた銅製品にレーザー光線を照射すると、錆がきれいに無くなる。

 削り取るのではなく、還元させるので、傷などは全く付かぬそうだ。

 この場合、「錆」は概ね「酸化」した部分を指すから、銅製品については「青錆」ではなく「緑青」だ。銅製品の緑色のは硫化、塩化したものの方で、酸化すると黒くなる。

 これを「元に戻す」ので、重量は変わらぬそうだ。

 すぐに思い浮かぶのは、「銅貨の状態保持」への応用だ。

 青銅貨などは、短期間のうちに表面が劣化して、緑青や錆が浮いてしまう。これが簡単にクリーニング出来るのであれば、青銅貨の「状態」を決めるのは、「傷の有無」に重点を移す。

 色合いなどはあまり気にせずとも良くなってしまうことになる。何故なら、「簡単に元に戻る」からだ。

 

 画像はこれまで幾度も報告して来たが、、金融機関の金庫から出た「ロール割り」の銅貨だ。「ロール割り」と言っても製造者ロールではなく「金融機関ロール」なのだが、ほぼ未使用状態で包まれたものなので、事実上、前者と変わりない。

 経緯については幾度も記したので省略するが、リーマンショックの前後頃に、資金の見直しに迫られた金融機関から「買い取り希望」の連絡があり、銀貨類と合わせて入手したものだ。

 私が直接担当した案件が三件で、この他にも小口の依頼が複数件あったから、同時期にまとまった量を買い入れたことになる。

 事務所を訪れた担当者がサンプルを出し、「どのくらいで買って貰えるのか」と問うので、規定の線を答えると、「売ります」との返事だ。ここで初めて在庫を聞いたが、千枚前後だった(既に不確か)。金融機関で帳面上は額面勘定だろうから、何百倍かの換金になる。

 担当者は上機嫌で、「こちらもあります」と銅貨を出したが、そちらは和紙に包まれた青銅貨だった。やはり記憶が定かではないのだが、青銅貨の方は、先方が値を付け、殆ど謝金程度だった。事実上、銀貨のオマケだ。

 私の事務所を訪れる前に、数軒の業者さんのところにサンプルを持って行ったが、散々な結果だったらしい。きっと青錆が見えていたのだろう。どんな対応だったかは想像出来る。

 包みを開けて覗いてみると、確かに青錆が見え隠れしていた。

 近代貨は概ね「ドボン」したので、見るのも嫌になり、以来十年間は開けて見ることも無かった。

 

 四五年前の片づけの時にたまたま出て来たので、初めて詳細に点検したが、状態自体はほぼ未使用だった。これは「市場で使われていない」という意味だ。

 打ち傷・擦れ傷の類がほぼゼロに近い。なお打極の直後に落下する際に、必ずひとつ二つはアタリが出来るので、完全にゼロにはならない。

 しかし、残念ながら、青銅貨だけに多くの貨幣には、多かれ少なかれ緑青が浮いていた。薄暗い金庫の中で、和紙に包まれていても、表面の劣化は避けられない。

 粟粒に満たぬ大きさの緑青が見えれば、そこで未使用でも極美品でもなくなってしまう。残念な話だ。

 ま、幾らかは緑青や色むらの少ない品があったので、幾つかはネットオークションで売却した。存在数から見て、五千円以上の評価をしても良いと思ったのだが、近代貨コレクターは人一倍「状態評価に小煩いので」、下値を一律千円とした。

 やはりちゃんと見る人、見られる人はいて、中には数万円の値が付いたことがあったから、銀貨で作った欠損を、「ただ同然で貰った青銅貨」が埋めてくれる結果になった。

 近代貨では苦々しい記憶しかなかったので、冷淡に扱うようになったのはこういう経緯による。正直ウンザリだが、いまだに家の隅から出て来るから、その都度イライラさせられる。

 

 だが、こういう考えも、いずれ悩まずに済むようになるのかもしれぬ。

 緑青や錆を、地金を摩耗させることなく除去出来るようになるなら、単純に「傷の程度」だけで状態評価の柱を立てられるようになる。そうすれば主観的評価の介在する余地が減り、極端なグレード分けにも意味がなくなる。

 ただ、レーザー機器による「緑青・青錆の除去」方法が一般に普及するのは、まだ先のことのようだ。今のところ、業務用の大型コピー機2台分のスペースを占有する装置だから、「誰もが手軽に使える」わけではない。

 

 もしかすると、「未使用級」に化けるかもしれぬので、金融機関から出た「ロール割り青銅貨」は、再び和紙に包み、眠りにつかせることにしようかと思う。

 息子か、あるいは知人になるのかもしれぬが、その者の手で緑青の浮いた「町娘」が「マイ・フェア・レディ」に化ける日が来るのかもしれぬ。

 ちなみに、ビニールやプラスティック製品の傍に置くと、短期間で劣化する場合がある。塩化、硫化素材を使っていないか、よく点検する必要がある。

 西洋紙も酸を使っている場合があるので、注意が必要。明治の紙はアウト。

 「和紙で包んで乾燥した暗所にしまう」のが、案外、保存には適しているようだ。

 

注記)いつも通り、推敲や校正をしないので表記に不首尾がある。あくまで日記の範囲ということ。