◎古貨幣迷宮事件簿 「旭日龍五十銭銀貨 明治四年の文字型」これまでのおさらい
さて、このシリーズの発端は「極印割れエラー」の観察から、偶然生まれたものだ。
打極を重ねるうちに、極印が劣化し、ひび割れが生じたが、気付かずにそのまま打った。このため、そのひび割れ箇所は、貨幣に蔭陽(凹凸)が逆転した筋を生じさせる。
明治初期の打製貨幣には割合これが見られるようで、私は過去にも幾度か見たことがある。ただ、多くは谷(底)の「平らな部分に筋が走る」内容だったので、文字にはっきりとかかるケースはこれが初めてだ。ま、これくらいなら「エラー」に入れても良いかもしれぬ。
これを「誰の目にも分かるかたちで情報を作る」ために、デジタルマイクロスコープで撮影し、比較を試みようとした。これが最初の発見に繋がる。
(1)文字型の相違
ところが、筋のあるもの・ないものを並べて見ると、文字のかたちが違っていることに気が付いた。この時、直接目に付いたのは「日」字の大きさの違いだ。「日」字に大小があるわけだ。
そこで、各文字を個別に撮影し、サンプル1と2を比較してみた。
すると、殆どの文字について、特徴に違いがあった。
そうなると、その相違が「どういう理由で生じたか」という関心が生まれる。
打極を重ねることで極印に劣化が生じ、それが反映されたような類の相違なら、あくまで「ノイズ」(雑音)で、極印そのものの違いには結びつかぬのだが、「最初からの相違」、すなわち極印そのものが異なるケースがあるかもしれぬ。
次に、この特徴の違いが、この2枚だけでなく、他の貨幣にも及んでいるのかを調べるために、手持ちの同種同年号の品について同じことを試みた。
すると、わずか7サンプルの観察でも、「文字型の組み合わせに複数種ある」状況が伺えた。この後、枚数を重ねると、これらの相違点が次第に増えて行くものと見られる。
現時点で分かっているのは、サンプル1、3(カテゴリーI)とサンプル2、4、7(カテゴリーII)という歴然とした相違を持つ群の他に、5、6などカテゴリーIIに近似しているが部分的に異なる群が存在するということだ。
ところで、この銭種・年号には、規格の異なる小型が存在するので、試験的に同じ基準を用いて、この小型を観察してみた。規格が異なり、小型は小型だけで観察するのが筋なので、あくまで参考的な情報になる。
この2枚については概ね「カテゴリーII」に近い構成となっているが、一部に相違がみられている。
デジタルマイクロスコープを使用すると、これらの分析が僅か数日で出来る。
(実際には、たった二日間だ。)
そうなると、五百枚や一千枚を観察するのも、労力的にはさほどのことはないと言える。
これまでの型分類では、ひとつの特徴の相違を銭型の分類として代表させてきたわけだが(「欠銭」など)、要素に分解することで、もう少し体系的な見方をすることが出来る。
さて、既に二十五年前から「出来たるマイクロスコープで見る目が変わる」と説いて来たが、今回はその意味を具体的なかたちで示すことが出来た。
近代貨(打製)では有効性が明らかだが、鋳造貨幣でも詳細な観察に役に立つ。
さて、道は付けた。この先は、老兵ではなく若手収集家が考えることになる。
この視角を押し進めると、例えば「旭日龍明治四年銘の極印が何枚存在したか」のような推定が可能になって行く。そうなると、このジャンルの将来は割とバラ色ではないかと思う。
まずはデジタルマイクロスコープを買うことからだが、たった三千円で見るものが変わる。
注記)いつも通り、推敲も校正もしない。不首尾はあると思う。