日刊早坂ノボル新聞

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◎古貨幣迷宮事件簿 「これは日本の貨幣ですか」 質問と回答

◎古貨幣迷宮事件簿 「これは日本の貨幣ですか」 質問と回答

 ウェブページ版の「古貨幣迷宮事件簿」の質問欄を通じ、次のような質問が寄せられた。

 正式回答はまだだが、ひとまず現在考えられ得ることを記す。

 なお質問自体は中国から寄せられたものだ。

 

 <質問>

 こんにちは!お邪魔して、私は中国からの日本の古銭の愛好家で、日本の古銭を収集する過程の中で、いつもいくつかの問題に出会うことができて、とても助けを得ることができることを望んで、ありがとうございます!

   永楽通寶:外径34.7mm ,厚2.20mm,仙台祝?開炉?絵銭? よろしくおねがいお願いします!

 

 <回答>

 今のところ、新作絵銭であるように見受けられます。まだ製造より三十年経っていないのではないでしょうか。

 この先は、真贋鑑定について、文字で記すことのできることのみを記します。簡単に分かる目安を記すと、それを贋作に利用されてしまいますので、ひと目で分かる基準については記載しませんが、これは了承願いなす。

 なお、勉強になる品をお知らせくださり、真に有難うございました。

 

 <鑑定の段取り>

 多くの先輩収集家が指摘した通り、和銭の鑑定の手順は、「まずは背から」で、背面の製作を見て、次に表面を見ます。これは、背面の方が情報量が少なく、かつ製造工程が判別できることによります。

 ただ我々の会(雑銭の会)の流儀では、製造工程を先に確認しますので、一番先に輪側を観察します。

 鋳銭座であれば、何十万枚、何百万枚の製造に耐えられる用具を使用する一方、絵銭であれば数百枚から数千枚の枚数に留まりますので、少数枚ずつ作成する工具を使用します。双方が使用する用具は全く違うことは言うまでもありません。

 作業効率を良くするために、貨幣であれば百枚単位の束で取り扱うし、絵銭であれば概ね一枚一枚もしくは数十枚単位で仕上げを施します。

 この観点から、まずは1)輪側の仕上げ工法、2)背面のつくり方、3)表面の型の手順で観察することにします。

 

1)輪側の仕上げ

 まず最初の関門は輪側の仕上げ工法となります。

 残念ですが、この段階でこの品は「作品」であることが分かります。

 この品は輪側に何ら研磨処置を施していません。

 鑢、砥石でかたちを整えぬ工程は、通貨(鋳銭)、絵銭を通じ存在しません。

 ほとんど鑢を入れずバリ取りだけのものもありますが、それでも必ず痕が着きます。

 鑢を入れぬ理由は、「入れると新作銭であることが分かる」からです。百五十年前、百年前に使っていた研磨用の工具は、各々の時代により特徴がありますので、鑢痕があればそれだけで時代を判断することが出来ます。一例を挙げると、鑢は鉄素材に線条痕を刻んで作りますが、これは一本一本が手作りによります。手で作ったものであれば、一つひとつに違いが生じます。

 

 ここで結論は出ているのですが、ひとまず次に進みます。

2)背面側

 もし公用鋳銭座(要するに通貨製造工房)で、開炉祝鋳銭を作るとすると、原母は金属を彫金して作ります。これが銭座のものでなく、民間の絵銭であれば、木材を彫刻して木型を作ります。

 双方には、必ず「決まった特徴」があるのですが、この品にはその両方がありません。

 (詳細は贋作の手助けになりますので記しません)。

 私見ですが、この品の母型(原母)はプラスティックや粘土などを刻む手法で作成していると思います。

 また和式砂笵を使用して鋳造したものではないと思います。石膏型か金属型(銭笵)など、崩れにくい素材に拠っています。

 ひとつだけ特徴を記しますが、特徴Aは和銭には出来ません。銭笵式だけにこの特徴があります。

 理由は簡単で、「砂型なら汚く崩れてしまう」という点です。

 

3)表面側

 裏面で観察した通り、鋳造法、仕上げ方法の両側面から見て、百五十年前に作られた品とは思えないことが再確認出来ます。

 ・彫り母(原母)をどういう手順で作ったか

 ・鋳造法がその時代に合っているか

 ・仕上げ工法が工房の規模似合っているか

 どの点から見ても、条件に適うものがどこにもないと思われます。

 

 仙台の「開炉祝鋳銭」という触れ込みがどこから出たのかは存じませんが、どこでどうやってこの品を入手したかを考えると、その時点で答えは推測出来ると思います。

 仙台銭は、公用銭座(通貨)あるいは絵銭座の双方について、極めてはっきりした特徴があります。

 この三十年くらいの間に、日本の地方絵銭などのコピーが中国で作られるようになっているのですが、当初は虎銭などの輪側をグラインダで研磨処置していました。

 これはマイクロスコープで簡単に確認出来るわけですが、これが知れると、仕上げを施さぬ品が来るようになったのです。「せいぜい三十年内」という指摘はこのことによります。

 日本でも某氏が作った「鋳放」銭類が広く流布されたりもしました。

 密鋳銭座の粗雑な鉄銭や銅絵銭に見仕上げ・鋳放銭は無いわけではないのですが、希少銭の類には「存在せず、総て贋作である」、もしくは「新作絵銭」と考えた方が宜しいと思います。

 ちなみに、表面の黒いのは「付け色」だと思います。

 皇朝銭には青錆、絵銭・地方貨には付け色と、新作銭にはまるで「こうでなくてはならないのか」と思えるほど同じ処置が施されています。

 

 さて、以下は告知です。

 雑銭の会旧会員を中心に、今回は画像しかないのですが、何かしら鑑定意見があれば、拝聴します。なお意見を言うには自らを明かす必要があるので匿名意見はお受けしません。

 

 さて、中国の古銭製造者さまへ。

 私がいれば日本の収集家が「鑑定に迷うような品」を作ることが出来ます。

 ま、求めがあれば、どこがどう違うかを講演してあげます。

 もちろん、本業がコンサルタントなので、報酬はもの凄く高額ではあります(w)。

 日本の「古貨幣を絵銭として模倣製造し、中国の収集家に売る」という路線は産業としてアリだと思います。何故なら本物は日本でも手に入らぬため、収集欲を満たすには代用品が必要だ、ということです。(ややシニカルな言い回しに)。

 

 なお今回は久々に中国からお便りをいただき、たいそう楽しませて貰いました。

 質問者様には私より深くお礼を申し上げます。