日刊早坂ノボル新聞

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◎墜落する飛行機 「今週は七夕賞」

墜落する飛行機 「今週は七夕賞
 馬券師は「墜落する飛行機の中で椅子取りゲームをしているようなもの」で始まるスレッドの続き。馬券予想記事ではありませんので念のため。

 昔、某省の調査研究機関の研究員だった時期があるが、その職場が後楽園にあった。

 PCを操作できる者がごく少数派だった、かなり昔の話だ。
 汎用機を動かして計量処理をすると、一回転で二十万かかる。これを「PCを使えるヤツ」に任せると、ひと月に百万単位でかかっていた集計費が「一人分の給料の額まで圧縮できる」。
 そのことに気付いた上司が、「入力と集計」を非常勤研究員、すなわち当方に押し付けるようになった。
 こうして研究所の体制として、一件「二千票から三千票の調査集計の入力から計算処理まで」を一人(当方)の担当に任せるようになった。
 これが月に五六本だ。データ入力自体はパートやアルバイトの女性の方が早くて正確なのだが、検票やデータの解釈は研究員の頭が必要で、これには手間がかかる。調査票に書いてあることが真実とは限らないから、不適切なデータは一件一件判断し削除する。これには全票をチェックする必要があるので、膨大な時間を要した。ちなみに大手研究機関では研究員がいちいち票のチェックなどはやらない。理由は「とてもやってはいられないから」。集計結果を見て、都合の悪そうなデータを修正するだけ。

 このため、九月から四月までの繁忙期は、ほとんど毎日後楽園に行っていた。平日も土日もなく、休日はほぼ無い。
 毎日十一時まで計算処理で、家に帰る時間が惜しいので研究所至近のサウナで寝起きした。ロッカーには一週間分の着替えが入っており、Yシャツは職場近くのクリーニング店に出した。下着は日曜の夕方に帰宅して、そこで一括で洗った。
 こんな生活を一年二年と続けると、体と心が荒れて来る。
 五月から八月は割と仕事が緩いので、毎日まっすぐ家には帰らずに、夕方八時からはリーチ雀荘に行き、十一時から一時までは「夜の部活」に出ていた。今で言うキャバクラだ。

 暇な時期でも土曜はほぼいつも、日曜でも必要に応じて後楽園の職場に行っていた。
 ドーム下には場外馬券売り場(ウインズ)があったが、その地下に食堂(屋台並み)が幾つか並んでおり、よくそこで食事をした。
 どういうわけかどこの競馬場でも、場外に美味しい飯を出す店がある。
 その頃は、場外の地下でよく「すき焼き丼」を食べたが、「牛丼」と「すき焼き丼」の違いは、蒟蒻を入れるかどうかのよう。それもしらたきではなく味の沁みた「つきこん」だった。
 これが旨い。
 そこが気に入り、土日の昼には頻繁にここで食べた。
 週末の職場には他に誰もいないので、もちろん、食事の前にビールを飲む。

 この時、顔を上げて建物の中の方を見ると、そこでは馬券を売っていた。オヤジたちが屯しているし、レース実況も聞こえる。
 飯の後に、何となくフラフラと馬券を買っていくのが習慣になった。
 もちろん、中々当たらない。
 当時は今のように調教ビデオを確認するようなことも出来ず、新聞を買って読むくらいしか情報源が無い。
 それで当たるわけがないのだが、皆条件は同じだ。

 ある時、やはり後楽園の場外で飯を食べたのだが、それが終わるとちょうど八レースが始まるところだった。
 地下のオープンスペースに置かれたテーブルに近づき、パドック中継を何となく観たが、何だかピカピカと光って見える馬がいる。人気薄だったので、「単勝複勝」でもアガリが取れそうなのだが、馬券購入は想定していなかったから、財布には三千円しかない。
 「これじゃあ、勝負にはならんよな」
 と、帰りかけたが、そこで思い直し、ウインズの中に入って、馬券を買った。単勝複勝はその馬一点で、他に馬連を一点だ。
 これが的中して、三千円が二万円くらいに化けた。

 「何だか今日はツイてるような気がするぞ」
 そのまま中継を観て、九レース、十レースも的中。いずれも固いレースだった。
 この次を勝負するかどうかが思案のしどころだ。
 前のレースのアガリをオールインして勝負する、いわゆる「馬券ころがし」としたので、アガリが倍々で増えたが、三連勝は時々あっても四つ目が当たることは稀だ。
 何せ「馬券師の八割はタネ銭を減らして帰る」のが通り相場と決まっている。誰も口には出さぬが、馬券勝負はやればやるほど負けて行く。

 この日のメインが七夕賞だったと思うが、結局そのレースも当てて、結果的にタネ銭三千円が三十数万に化けた。
 一点十枚(千円)二十枚(二千円)の購入から始め、アガリが三十何万かに達したわけだ。
 この時、真剣に悩んだのは、「最終レースで勝負するかどうか」だった。四レースを連続的中して、五レース目にも勝負するかどうか。
 生ビールを飲みながらしばし熟考した。

 この日の当方は勘が冴えており、結局、「競馬は今が潮時」だと感じ、十二レースを買わずに帰った。
 性格的に、もし勝負したならオールインしたと思う。「元が三千円だからスッても惜しくないし、そこで的中できれば、百万単位のアガリが取れるかもしれん」と思うわけだ。だが、十二レースを買っていれば、そこでしくじってドボンしたと思う。

 この日曜に出勤していたのは当方だけ。結局昼から夕方まで場外に居て、仕事はしなかった。研究職は専門職なので、残業費などは出ない。よって上司から「しろ」とも言われぬが、「納期」については散々言われる。これは「サービス残業しろ」と言うのと同じ意味だ。

 当時の笑い話は「研究職の仕事は時給三百円」というものだったが、実際はそれより低かったのではないか。大学院を出て勤める「研究職」など、見栄えばかりの名誉職と変わりない。パートのオバさんたちの方が、時給換算では上だった。
 この頃には、大学で講義をするようになっていたので、負担がさらに増え、徐々にカタルシスを迎えようとしていた。
 この日はそれから職場に戻ったが、場外で中継を観ながらビールを飲んだので、もはや仕事にならない。
 「それなら今日はもう止めて、遊びに行こう」
 だが、日曜だし「夜の部活」はやっていない。
 そこで、雀荘に行くことにし、職場の前でタクシーを拾って、時々通っていたリーチ雀荘まで行った。日曜はドームで催し物が無い限り、電車も混雑してはいないわけだが、この日は懐に余裕がある。

 リーチ雀荘は「ピンのワンスリー」か「ニのニイヨン」くらいの安いレートだったが、その店に入って、まずは受付でチップを買った。
 場外馬券場の購買機で、レースが終わる度に複数枚の券を換金したので、金種が細かくなり、万券、千円札もその都度枚数が増えて行く。結局百数十枚になり、財布には入らぬので、それを輪ゴムで束ねてポケットに突っ込んでいた。
 雀荘の受付で、ポケットからその札を取り出すと、ちょうど外側が万券だったので、傍目では「万券の束」に見えたらしい。
 これを見た店主が「若いのにお金を持っているねえ」と驚いた。  
 ここはたぶん、店主は当方が二百万以上持っているように感じた。実際は千円札主体の三十数万だ。
 「いや、たまたま競馬で当てたんですよ」
 「そりゃ大したもんだ。賭け事が好きなんだね。麻雀もやるわけだし」
 「麻雀は下手ですから、時々だけです」

 この日は雀卓でもツイており、五連勝くらいしたような記憶がある。その後も二着を挟んでまた連勝だ。馬券で三十数万勝ったが、麻雀でも二十万近く勝った。
 場外では一レースにつき小分けにして何枚かの券を買うわけだが、換金はその都度千円札交じりのため、バラ券が二百枚くらいに達している。ズボンのポケットにも札が入り切らぬようになったので、店主から紙袋を貰ってそれに入れた。

 これがきっかけで、しばらく後に、麻雀店主から「上の階で、もう少しレートの高い卓があるけど」と誘われた。
 マンションの卓は不良交じりだし、普通、一般人はそんなところに入ったりはしないのだが、その店のメンバーに悪友のコウちゃんがいて、裏事情に詳しかったので、それほど不安を感じずに行ってみた。
 この辺は専門が社会学なので、人間関係全般に興味がある。
 そこから先の一年は、たぶん、一般人が見られぬような夜の世界を観たと思う。飲む・打つ・買う三昧だった。

 当方の取り柄は、「自分が勝負事が下手で、勝てるのはたまたま」だということを心得ていたことだと思う。
 麻雀も馬券ももの凄く下手な方だ。もちろん、ここは「その道の人に比べると」と言う意味だ。勤め人と一緒にするなよ。
 ま、勝負事で大切なのは「行き際・引き際」だから、そのうちの半分(引き際)だけ弁えていおり、酷い負け方をしなかった。

 七夕賞の季節が来ると、あの頃を思い出す。
 後楽園界隈では、仙台牛タンの店とかお寿司屋さんとか、美味い外食店が多くその意味では楽しかった。

 さて、先週はCBC賞には行かず、巴賞に向かった。直感で「CBC賞は当てられない」と思ったわけだが、案の定、あの不規則な荒れ方だ。筋(展開)を考えて出来るレースではなかった。
 今週の七夕賞は「中荒れ」のことが多く、「ソコソコ行ってみるべき」レースになる。

 福島競馬場が改修される前には、今より直線が短かった。
 小回りで開幕二周目のレースなので、「内枠の先行馬」から選ぶのがセオリーになっている。
 かつての大荒れパターンは、「高齢の差し馬」が穴を開ける展開だ。
 だが、今の福島は直線が割とあるから、昔ほどの有利不利はない。
 「どちらかと言えば、内枠の逃げ先行が有利」を念頭に置く程度で、「軸はそこから」と見なすのは危険だと思う。

 

 付記)眼疾があり、入力チェックや校正が行き届きません。誤変換が残ることが多々ありますが了承願います。