日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎見る側の視点が替わると見え方が変わる

見る側の視点が替わると見え方が変わる
 週に三日、病院のベッドに五時間くらいずつ横になっている。これが退屈で、時間を潰すのに苦労する。テレビも映画もゲームも既に飽きた。今は専ら、ようつべ動画で主に格闘技を観ている。
 昔の試合、最近の試合を観るわけだが、当時の見方とは視点が違うので、試合の見え方が違って見える。
 この日観たのは、「馬場vs上田」戦と、「安納サオリVSジュリア」戦のふたつだ。

ジャイアント馬場VS上田馬之助」戦
 シン&上田コンビが全日を席巻していた頃の馬場VS上田戦になる。(唐突に組まれたのは、どういう事情があったのか?)
 当時は善悪の意味づけが先に立ち、馬場=ベビーフェイス、上田=ヒールの枠で眺めていた。こういう価値観が先に立つと、事実を事実として客観的に眺められなくなるのは、半島人を見れば一目瞭然だ。柔軟性も発展性も無い。

 試合序盤は、上田さんのグラウンドでの一方的な攻めだ。
 上田さんが日本プロレスに入ったのが、馬場、猪木と同じころで、幾らか先輩だったと思う(年齢はニ三歳上)。
 レスリングの技術には定評があり、寝技関節技とも巧みだったそうだ。
 馬場さんの表情が「マジな苦悶」なので驚かされる。
 馬場さんは脚力があり、脚への攻めが効かない。(長州さんのサソリ固めも馬場さんには極められなかった。)
 上田さんは膝関節を取っていたが、すぐ下にアキレス腱があるのに、そっちは攻めなかった。極めればすぐに試合が終わる。
 ところが極めない。
 これは上田さんの「ヒールの仕事は試合に勝つことではなく、観客を沸かせること」というポリシーに基づく行為だった。
 上田さん自身、「ヒールの相手は観客」と明言していた。
 悪玉が善玉をピンフォールしたり、ギブアップを取ったとしても観客は納得しない。だから極められるのにそれをしない。

 馬場さんにもこれが分かり、試合の途中から形相が変わった。
 上田さんが本当は「いつでも倒せる」と思っているのを感じっ取ったからだと思うが、試合の後半は馬場さんが普通はやらない腕殺しを繰り出していた。
 明らかに「怪我をさせる」ことが目的の攻め方だ。
 繰り返しこの場面を観たが、折るつもりで関節を捻じ曲げている。上田さんは一発で負傷したのがアリアリと分かる。
 この試合の凄さは、途中からセメントマッチに様相が変わったことと、それでも上田さんが冷静にヒールとしての務めを全うしたところだった。
 終盤には、新人の天龍選手が椅子で上田さんを攻撃したりと、緊迫感があった。もちろん、馬場さんの反則負けにはならず、最後はレフェリーによる不可解なTKOで馬場さんの勝ちになった。
 ま、形式的結末はお決まり通り。

 この試合の馬場さんの形相はただならぬものがある。
 上田さんが「自身の存在を脅かす相手」だと思ったから逆上した。
 後に新日とUWFの対抗戦があった時に、上田馬之助は新日正規軍のメンバーとして前田日明と対戦した。
 この時にも「上田さんは自分(私)の関節が極められたのにそうしなかった」と前田選手が言っていた。だが、相手が「何時でも極められると思っている」のも分かったそうだ。
 ちなみにこの試合では、上田さんは「両者リングアウト」で、前田選手を消した。勝ってはダメだし、負けると後が猪木選手だけで三人と戦うことになったから、ヒールとしては最善の選択だった。

 今にして思うが、上田馬之助は本当に凄い。
 190㌢を超えており、この年代のレスラーとしてはもの凄くでかい。馬場さんと並んでもそん色がないデカさだった。
 しかも、ヒールでいて「実はレスリングが出来た」。
 新日正規軍がUWFと対抗戦をするに、上田さんをメンバーとして選んだのは、レスリングと駆け引きが上手いからだった。
 かつての敵が心強い味方になった。

 上田さんの真骨頂は「自分の立場を理解し、それを務めた」ことだ。今は上田さんが再評価されるようになっているが、動画も配信されているので、きちんと確認出来る。
 この試合は、上田さんは馬場さんとそん色ないレスラーだが、馬場さんは「それでは立場上困る」と思い、あえて怪我をさせに行った試合だった。

安納サオリVSジュリア」戦 
 スターダムでの数か月前の試合だと思う。安納は所属選手ではないが、今はスポット参戦?を継続中だ。
 安納選手は「女子プロレスを担う」中心レスラーの一人で、この選手か、東京女子の山本実優選手がポスト里村の時代を担う。
 格で言えば、今は安納選手がかなり上で、既に女性プロレス界の中の「大物」としいて認められる存在だ。

 安納選手は技も出来るが、それ以上に、「持って生まれた艶」がある。
 静止画像ではよく分からぬが、試合中の動きを見ると、常に「きれいな線」を見せてくれる。
 体型もきれいだが、技の動作の醸し出す線も美しい。
 今や米国を主戦場とするアスカ選手は、日本の「カナ」時代には、「いつもどこかエッチ」な感じがしていた。
 米国のプロレスで成功するには、「女性的な色香」が必ず必要だと言われるが、アスカ選手同様に、安納選手もそれを持っているから、早いとこ米国サイドに発見して貰った方がよい。
 とりわけオヤジ観客は目が釘付けだろう。だが、それ以上にレスリングが出来る。

 ただ、最近のプロレス(男女問わず)に不満があるのは、ただひたすら次々に技の応酬に終始する点だ。
 大技を双方が何十回も繰り出しているのに、なかなか決まらない。見ている方が疲れて来るので、メリハリと起承転結のある試合を構成して欲しい。
 観客がいるスポーツは、食事と同じ。オードブルからの流れに沿って、メインの皿はひとつふたつでよい。
 かつてのリック・フレアらの試合には、流れがあり、ストーリー性があったが、今の試合は最初から肉肉肉肉と食べさせられるような内容になっている。こういうのはすぐに飽きると、早く気付け。

 ま、安納選手の場合、エンタティメント路線でも対応出来るキャリアがあるから、その辺も利用して流れを組み立てて欲しい。
 必殺技はひとつでよく、試合結果は「勝ったり負けたり」でよい。勝ちにこだわる必要はなく、いい技が決まったらスリーカウントを与えればよい。
 形式的な勝ち負けにこだわり、延々と応酬を引き延ばすだけでは観客は満足できない。
 「ただの喧嘩」を見せる団体もあるが、それで喜ぶのは若者だけ。
 大人はそんものはどうでもよい。勝ち負けだけなら、銃火器を持ってる方が強い。
 安納選手の最大の武器は、線が美的なことに加えて「懐が深い」ところだ。
 この選手の活躍すべき場はスターダムではなく、米国だと思う。今は三十を過ぎたところで、レスラーとして乗りに乗る年頃だ。