◎さくらえみの凄み
もう四十台でオバサンレスラーの域だが、米国AEWに定期的に参戦している。
この選手は元がFMWだったかIWAだったかのインディ系の出身で、長らくインディを渡り歩いて来た。
その分、プロレスの何たるかをよく知っている。
背が高くないが、ウエイトはある。見栄えはしないが、試合の流れを作るのが上手だから、日本でも女子プロレス団体のコーチをして来た。
その「さくらえみ」の最近の試合をユーチューブで観た。
AEWで、まだ新人の域の米国選手と戦っている。
相手選手は単発の大技をプツンプツンと繰り出すだけのデクノボーだ。
開始当初に感じたのは、「この試合ってジョブでは?」ということだ。
「ジョブ」は「負け契約」の試合のことで、日本語のニュアンスでは「お務め」に近い。負けてあげて、相手を引き立たせる役だ。負け契約の選手のことは「ジョバー」と呼ぶ。
まともに戦えば、簡単に倒せるだろうが、自身がスタア選手ではないことを知っているから、きっと「ジョバー役を務めることも平気だろう」と思ったのだ。
試合は頃合いのところで、さくらえみがその「下手糞な新人選手」に負けた。やっぱり。
だが、途中で相手選手を転がして、「スリーカウント出来る」ところで相手を引き起こした場面がある。そこは「こんなヤツは何時でも勝てる」と示したかったのだろう。
プロレスの試合は「勝ち負け」よりも、「流れを作り、観客を楽しませる」ことにある。
アントニオ猪木さんだって、「観客を怒らせて、暴動が起きる寸前のところに行けば、その試合は成功だ」みたいなことを言っていた。
猪木さんでも、もちろん、勝ち負けは多く契約のうちに入っていた。
職人が自分の仕事をわきまえていれば、仕事が繋がる。
ジョバーを上手に努める器であれば、当面の間、さくらえみ選手もメジャー団体で起用され続ける。
それも生き方のひとつだと思う。