◎八十年台に観た映画 「食人族」編
八十年台には、毎週一二回、映画館で映画を観ていた。
昔は二本立てのことが多く、「同時上映作品」まで観たから、一度映画館に入ると、五時間くらい椅子に座っている。
ある時、何かサスペンス映画のようなものを観るために映画館に入ったが、折悪く二本立ての「じゃない方」の映画が始まるところだった。
勿体ないので、それも観ることにしたのだ、その同時上映の方が「食人族」だった。
若者たちがジャングルの奥地に入るが、そこに食人族がいて・・・という筋だ。筋と言ってもストーリー的な要素が薄く、原住民に若者が捕まって、ひたすら食われるだけ。
その何年か前に「グレートハンティング」という、アフリカで観光客がライオンに食われるドキュメンタリー映画があったが、その映画くらいから表現がどぎつくなり、「血がドバっと出て、内蔵が飛び散る」みたいなスプラッター映画が流行りになっていた。「食人族」も、原住民が寄って集って、若者を引き裂いて、腸を引きずり出して食べる。これが延々と続く。
景色が南太平洋だったから、食人の習慣があった部族と言えば、ニューギニア方面だ。だが、そこの原住民は戦士が「敵のエネルギー」を取り込むために食べたから、映画とは全然違う。
予備知識なく「食人族」を見たが、とにかく激しいスプラッター路線だけの映画だった。
次に目的の映画を観たが、前のが酷かったので、ほとんど集中出来ず、途中で寝てしまった。
今調べると、当時の同時上映作品は「処刑教室」のことが多かったようだが、違う映画だったような気がする。
「ザ フォッグ」だったかも。
その後、映画館を出ると、レイトショー終わりだったので、夜中の十一時頃だった。
腹が空いていたが、既に飯屋は閉まっている時間だ。
唯一開いていたのが、吉牛だけだった。
とりあえず、店に入り、「並」を頼んだ。
すぐに品物が運ばれて来た。
溶き卵を掛けて、ひと口ふた口食べたところで、ひとつ前に観た「食人族」を思い出した。
原住民が若者の体を引き裂いて、内蔵を引きずり出して食っていたが、その腸の色が牛丼の肉にそっくりだった。
後にも先にも、牛丼を注文して、ほとんど手を付けずに店から出たのは、この時だけだ。店員は「あいつは何?」と思ったろうが、それくらい気色悪い映画だった。
一年前くらいに「食人族」がリメイクされ、「グリーンインフェルノ」という題名で公開された。
ビデオになった段階で借りて観たら、若者たちの乗る飛行機がジャングルに墜落して・・・、と展開が「どこかで観たことがある」筋だった。
「これってパクリじゃないのか?」と感じたが、なあに、きちんとリメイクと銘打ってあった。
原住民に敬意を払わず、ひたすら「野蛮な人食い人種」とだけ描いていたので、「この映画にも少しはポリコレを適用すればいいのに」と思った。