◎病棟日誌 R061012 酒を飲んでしくじる
この日の問診は、背の高いTさん(アラ40女性)。
川柳風に言えば「おべんちゃらは 人と人との 潤滑油」なので、とりあえず褒めてみた。
「背が高くて細いから、服が選べていいね」
すると、「いえ、私は細くないです。ほら」と言って、目の前でおなかを突き出して見せた。
ありゃ、本当に出てる。
想定外の行動に、頭が切り替わらず、「ジャケットを着ればわからないよ」と受けた。
イケネ。これじゃあ、「お腹が出ている」を認めたことになる。ここは「全然そんなことないよ」だわ。
ぼおっとしてた。
この日の穿刺担当はエリカちゃん。
何となく「この子は最近、酒を飲んでいない」と感じたので、「どうしたの?酒好きのエリカちゃんが今はほとんど飲んでいないんじゃねえの?」と訊いてみた。
「分かりますか。ちょっとした事件があって控えているんです」
「事件?」
エリカちゃんは少し言いにくそうだったが、最近起きた「事件」についてあらましを語った。
仕事帰りに駅前の居酒屋で酒を飲んだら、飲み過ぎて具合が悪くなり、病院に運ばれた。その担ぎ込まれた先が、この病院、すなわち自分の勤務先の病院だった。
「そりゃ、相当恥ずかしい状況だったね」
「そこで今は少し自重してるんです」
このままでは何だから、当方の失敗談を披露してとりなすことにした。
「学生時代に練馬文化センターの裏に住んでいたが、ある時、酒を飲み過ぎて歩けなくなり、文化センターの前のベンチで寝た」
たった五十メートル先のアパートまで帰れない。
明け方になり雨が降り出したので、ベンチの下に潜り込んだ。
だが小さいベンチなので、体の大半がグッショグショ。
それでも起きられない。
朝になり、通勤通学の人たちが行き来する中、ベンチの下で雨に濡れながら8時過ぎまで寝ていた。
この頃の「酔ってした失敗談」なら、区役所の玄関の前で少雨便をした件があるが、さすがにエリカちゃんには話せなかった。
その頃は冨士見台に住んでおり、電車がないので練馬で飲んで歩いて帰った。我慢出来ずに区役所の鉢植えでしたが、一度経験すると、同じ場所を通ると便意を催すようになる。
「こんな区役所を建てるのに四十億も使いやがって」と愚痴りながら放尿。よく考えると玄関先には監視カメラがあったはずで、ガードマンが全部見ていたかもしれん。
今ならすぐに逮捕されるが、昔は鷹揚だった。
「立派な役所を建てる前に、別のことに使えよな」と叫んでいたのが効いたかもしれん。
もはやウン十年も前のことなので時効ざんす。